味覚と嗜好のサイエンス

味覚と嗜好のサイエンス

著者名 伏木 亨
発行元 丸善出版
発行年月日 2008年04月
判型 四六 188×128
ページ数 166ページ
ISBN 978-4-621-07971-3
Cコード 1347
NDCコード 491
ジャンル 科学一般 >  シリーズ科学一般 >  京大人気講義シリーズ

内容紹介

「味覚」と「嗜好」は食行動を考えるための『基本』であるが内容は大きく異なる。「味覚」は口腔内での信号の受容と脳への伝達という単純な生理学的現象であるが、一方「嗜好」は食物に対する好悪の判断や長期的な学習・記憶による総合的な判断基準を指す。「おいしさ」は個人の嗜好から生まれる。嗜好の個人差には著しいものがあるが、その要因を整理してみると科学的に捉えることも可能となってくる。本書では「食を考える地平を確立する」という目的で、味覚と嗜好から、おいしさに至る感性の世界を生理学・行動学・脳科学・食文化・食品科学などの幅広い視点から興味深く解説。

目次

第1章 味覚と嗜好、そしておいしさ
 感覚のなかで味覚の占める位置は
第2章 味覚と嗅覚・食感
 味覚の受容機構/味覚を受容するのは七回膜貫通型受容体タンパク質/分子生化学の発達で味覚の受容体が次々に明らかにされた/塩味はナトリウムだけでは説明できない/酸味は水素イオン/においの受容体は三八八種類もあるが、うま味や甘味の受容体は一種類ずつしかない/味覚の周辺にあるさまざまな感覚/痛みや不快な感覚もおいしさの要素口から鼻へ抜けるにおいである風味はおいしさの決め手、懐かしい“味”も実はにおい(風味)の記憶/食感もおいしさの主役候補/つぶつぶの快感/究極のおいしさは食感にある?/指でも味わっている?
第3章 味覚伝達のメカニズム理論は激変時代
 味覚の研究者たちは右往左往/舌の表面には乳頭があり、味細胞が集まっている/味を受容する細胞/意外などんでん返し――甘味などの受容体は神経とつながっていない細胞に発現していた/細胞と細胞をつなぐ新しいメカニズムを考えなければならない/一本の神経は何種類の味を伝えているのか/神経と細胞はどのように互いを見つけるのかそれでも延髄には神経から信号が入っている
第4章 おいしさを探求する
 味覚から感性そして嗜好へ/食嗜好とおいしさは表裏一体の関係/生理的なおいしさ/食文化のおいしさは重要/情報のおいしさ/四番目のおいしさはやみつきになるおいしさ
第5章 油脂は味覚か
 油脂の口腔内受容機構/油脂に対する執着のメカニズム
第6章 味覚の脳内伝達とやみつきの発生
 イチゴはどうしてイチゴとわかるのか/扁桃体はおいしい・まずいを信号出力の大きさに変える/側坐核に登録されるとやみつきになる
第7章 食べ物のコクとはなにか
 コクの定義はないが、複合が高く嗜好性のもとになる/コクのなかに日本の味覚・嗜好・食文化がみえる/コクの三つの階層構造/コクのおいしさは生命維持の根源/第二層のコクは学習のコク/第三層(最外層)のコクは比喩のコク/原型のコクの特徴は報酬の快感/人間の文化として先鋭化された比喩的なコク/上品なコクとそうでないコク
第8章 おいしさの快感と品位
 おいしさにも上品とそうでないものがある/上品なおいしさをもたらす物質はあるのか/ネズミの嗜好はあまり品がよくない/味わう人に肉付けを求めるのが品位/極限にまで要素をそぎ取るほど精神世界に依存するコクとなる/満喫したら虚無へ戻る、昨今のラーメンつゆのコクにみる嗜好の振り子運動
第9章 トウガラシの辛味と痛み――痛みまでがおいしさになる倒錯の世界か?
 日本は韓国料理ブーム/辛さの成分はカプサイシン/トウガラシはなぜ辛い/辛さに対する嗜好を動物実験で再現する試み/「辛味」と「痛み」と「熱」に一つの受容体がかかわっている――カプサイシン受容体TRPV1の発見/TRPV1はカプサイシンだけでなく熱にも酸にも応答する/トウガラシの辛さは「体温が痛い」という信号?/温かい飲料や食品が甘く感じるのもTRPファミリーの関与
第10章 伝統の味、ダシのおいしさを分析する
 日本のだしの主流はカツオとコンブ、料理によって使い分けられる/コンブの香りも特定が難しい/生理的メカニズムはまだわからない/動物性の食品が乏しかった日本では、だしの味わいが基調であった/海外でうどんに群がる日本人/「だしにやみつきになる」のは油脂と同じメカニズム/実験室の核酸・アミノ酸でつくった人工のカツだしにマウスは執着しない
第11章 おいしいものは後味がよい
 食べた後が心地よいものを好きになる/むかつくホルモンもある/栄養素が著しくアンバランスだと快適ではない/栄養素のバランスが悪い食事は飽きやすい
第12章 秋の高級食材、マツタケはなぜ美味しい?
 マツタケのいおしさって何?/フランス人の若手有名シェフたちはマツタケのおいしさがよくわからなかった/昔はそれほど重要なものではなかった/マツタケのおいしさは学んでわかる情報のおいしさ
第13章 日本酒のおいしさの科学
 甘口は甘味、では辛口は?/水のように消える酒の組成は真水に似てはいない/「辛口」に対する味覚はない/ネズミたちは断然甘口を好む/辛口の酒を与えるとネズミは自分の体を分解してエネルギーを調達する/化学的に表現すると/辛口の五感にあらわれる「栄養不足で身を削るつらい味わい」/豊かな時代にこそ辛口が許される
第14章 酒のつまみの生理学:ビールのつまみはなぜ枝豆やポテチなのか
 つまみを決めるのは、私たちの体の要求/ナトリウムが欠乏状態になったら/カリウムがさらにナトリウム欠乏を促進する/塩辛いつまみなしでビールは飲みにくい
第15章 ドイツのビールは多飲量性:たくさん飲めるビールはネズミのほうがよくわかる
 動物実験でビールを判定する/動物と人間の生理的な共通条件を設定して解析した実験例/たくさん飲めるビールは存在するのか/ヒト利尿ホルモン濃度からみた多飲料性/実験動物による解析の可能性/生理学的な共通性以外はネズミの舌にも限界がある
第16章 魚を生で食べるおいしさ
 日本人は魚を大事に食べている/魚が焼けるのを待てない日本人?/新鮮と熟成――相反する二つの時間軸/生の魚には緊張感がある/高度な衛生観念があったことが大きい/生の魚の緊張感ってなんだる/野暮な料理をしない究極の料理
第17章 新鮮とはどんな味?
 酸化物質が増すから新鮮さが失われる?/新鮮な味には躍動感がある/新鮮物質は存在するのか?/実験室レベルの科学技術を駆使した高度な調理法
第18章 嗜好の教育は幼児から
 子供の味覚がおかしい?/離乳期のだしの味がだし嗜好を形成する/ネズミの離乳期と人間の離乳期/鋤になったのはだしの香り/香りの記憶を使って食の教育を

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