内容紹介
情報倫理学とは、コンピュータ倫理学よりもはるかに広い射程をもち、実名報道や「やらせ」などをめぐるメディア倫理の問題、「診療記録の開示」などに関する医療倫理の問題、希少種の保護や毒性のある物質の蓄積などに関する統計データの扱いをめぐる情報問題、さらには「内部告発」などのビジネス倫理学の問題まで幅広いテーマを扱う。情報倫理学はある意味では応用倫理学のたんなる一分野であることを超えている。本書では、「情報化社会」ともいわれる現代社会におけるすべての応用倫理学にとっての基礎学ともいうべき役割をも担う「情報倫理学」の全体像を、具体例をあげながら平易に解説していく待望の入門書。一般向けのみならず、大学テキストとしても最適。
目次
第1章 情報倫理学とコンピュータ
コンピュータの偏在化/コンピュータと「欠陥」/コンピュータと「責任」/「Therac 25 事件」と新しい技術倫理/SDI計画とプログラミングの限界/コンピュータと「専門家」/工学倫理/技術・運・責任
第2章 「有害」な情報とその規制
「有害」情報と表現の自由/現行法の適用の問題(日本の場合)/新法立法の問題(アメリカの場合)/インターネット犯罪条約/新しい対処法(情報フィルタリングの問題)/現実的な対処とその問題点
第3章 プライバシーとはなにか
法的権利としてのプライバシーの歴史/私的領域における自己決定権としてのプライバシー/自己情報コントロール権という定義とその隘路/電子社会における情報の集中とプライバシー―韓国の例に学ぶ/情報社会における「不安」/プライバシーと「公益」――医学研究を素材として
第4章 知を「所有」するとはいかなることか
「知的所有権」と知の所有/著者とは誰のことか/「業績」とは誰のものか/「剽窃」をめぐるパラドックス/バイオビジネスと知的財産
第5章 情報問題としての「脳死と臓器移植」
「見えない死」/医療に関する情報の「専門家」としての医師/:死の「定義」/「定義」の拒否/移植の現場における情報問題
第6章 情報の技術的「共有」をめぐって
第7章 情報倫理学と民主主義
暗号・電子投票/電子討論と匿名性/テクノフォビア・デジタルディバイド・情報弱者/阪神・淡路大震災と「情報ボランティア」/おわりに