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【コラム】新型コロナウイルスはどう落ち着くのか?

加藤茂孝(ウイルス学者、『人類と感染症の歴史』・『続・人類と感染症の歴史』著者)

 

 2019年12月に中国湖北省武漢市から始まった新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は、2020年2月19日段階で、世界で感染者が75,204人を超え、2,009人の死亡者が出て[1]、まだ終息の気配が見えない。そのほとんどは中国国内での発症である。

 2002年に発生し、2003年には世界へ拡散し世界経済にも大きな影響を与えたSARS(重症急性呼吸器症候群;severe acute respiratory syndrome)に比べても感染者数、死亡者数は多くなった。

 早い段階でウイルスが分離され、それはコロナウイルスであり遺伝子配列からSARSウイルスに近く、コウモリ由来であろうと推測されている[2]。現在、発熱、肺炎以外にウイルス遺伝子RNAを検出する逆転写PCR(ポリメラーゼ連鎖反応;polymerase chain reaction)で確定診断が行われている。SARSが流行した2003年に比べて技術的進歩は画期的である。

 コロナウイルスというのは、電子顕微鏡で見たウイルスの形が、王冠(太陽のコロナと同じ語源)に似ているから付いた名前である(図)。

 

図:コロナウイルスの電子顕微鏡写真

(国立感染症研究所https://www.niid.go.jp/niid/ja/kansennohanashi/9303-coronavirus.htmlより一部抜粋)

 

今後の感染拡大の帰結がわからないので決定的なことは言えないが、いくつかわかっていることがある。

 

 

1.ヒト・コロナウイルスの中での位置付け


 人に感染するコロナウイルスとしては7番目の発見であり、その内1-4番目は通常の風邪症状を示すウイルスに過ぎない(1番目は1965年発見)。その後、SARSコロナウイルスとMERS(中東呼吸器症候群;Middle East respiratory syndrome)コロナウイルスが見つかり病原性の高いヒト・コロナウイルスがあることがわかった。今回の新型は、病原性で言えば、両者の中間であろうと思われる。今回の流行が終息してみなければわからないが、来年以降はSARSの場合のように一度も現れないか、風邪コロナウイルスで病原性がやや高い5番目として落ち着くかもしれない。 

 

 

2.なぜ、武漢市では死亡率が高いのか?


 これは初期対応の失敗が一つの原因と思われる。感染症対策は、ひとえに「早期発見・早期対処」に尽きる。2019年12月時点で、「通常の肺炎とは違うので要注意」という指摘をした医師の発言を、市・省・国家のいずれかが経済的な損失などをおそれて抑えたことが被害を拡大させたと言われている。SARSの場合と同じことが起きた。さらに、人口の増大や、人の移動の規模が2003年からわずか17年間で格段に大きくなっている。

 第二の原因は、大量の患者が一度に発生した時の医療インフラが追い付かなかったことである。非流行時にこそ医療インフラの整備、医療従事者の訓練、備品の補充システムの確立などをしておかないと、流行時になってからでは時間的に間に合わない。初期に正確な情報発信をして早期に対処しておけば、患者の殺到をもっと緩やかにできたはずであり、患者への適切な医療措置を行うことができ、救命率も上がったと思われる。患者の殺到のピークをなだらかにする対策こそが、どの国においても重要になってくる。

 

 

3.死亡者の特徴


 多くは、高齢者でかつ基礎疾患(糖尿病、高血圧、肝臓疾患、腎臓疾患など)のある人である。加齢と基礎疾患は、免疫力を低下させる大きな原因である。免疫力低下者が感染症で死亡しやすいのは、インフルエンザなど他の感染症でも同じである。 

 

 

4.武漢市隔離の効果


 中国政府は武漢市を隔離した。WHOがSARS発生の際に不急の人の渡航自粛勧告で流行を抑えた教訓に則っている。これはSARSのみならず、ペスト流行以来の感染症に対する古典的で基本的な対策である。ただ、隔離実施が、遅かったのではないかという疑問が残る。隔離実施前に半数が武漢市を後にしているという報道があるからである。

 

 

5.個人的な感染防御


 基本的に風邪対策と同じである。すなわち、手洗い、マスク、うがい。コロナウイルスは外側にヒトの細胞膜と同じ成分を持つので、石鹸やアルコールに対して弱く不活化されやすい。手はドアノブ、つり革などいろいろなものに触れ、そこに付着している患者の飛沫などに知らずして触れるので、自分の手にも付着する。その手で、無意識に鼻や口に触れることが多く、そこから感染しやすい。したがって、手の消毒は効果的である。ウイルスは極めて小さいので通常のマスクで完全に防げることはない。どちらかと言えば、マスクは自分が風邪症状の時に咳やくしゃみで他人に移さないために使う。うがいについては、鼻腔や気管支など気道をすべて洗えるわけではないので、やらないよりはまし程度である。

 

 

6.人類と感染症


 新型コロナウイルスが一段落した後であっても、人類の生存が続く限り新興感染症は出てくる。判明している限りヒトの感染症の7割以上が動物由来である。人類と動物とは人類の誕生以来共存しているが、資源開発、人口の増加、航空機の発達、経済の発展など動物居住地域と人との接触機会がますます高まり、新興感染症出現の可能性は消えない。つまり、「常に起きていることであり、それに対して常に備えよ」である。人類のリスクマネジメントとして、温暖化防止、核兵器根絶などと同じぐらいに、感染症対策は極めて重要である。その意味からも、新型コロナウイルスへも賢く、冷静に対応しなくてはならない。

 

 

7.不安感情の最小化


 人間の行動の基盤は、理性ではなく感情であり、その中でも不安感情に動かされやすく、そのコントロールは大変難しい。感染症対策も、過去の歴史に学び、知識を積み上げてうまく備えて対応し、不安感情を減らす以外に成功し得ない。そのためには正確で信頼すべき情報を発信し続けて行くことが基本であり大切である。情報不足こそが人々の不安を掻き立てるからである。

 

 

 

[1]https://www.who.int/docs/default-source/coronaviruse/situation-reports/20200219-sitrep-30-covid-19.pdf?sfvrsn=6e50645-2 (2020年2月20日閲覧)

[2] Na Zhu, et al. : A Novel Coronavirus from Patients with Pneumonia in China. N. Engl. J. Med. (2020), 10.1056/NEJMoa2001017.

 

 

 

著者ご賛同のもと、2018年に刊行した『続・人類と感染症の歴史-新たな恐怖に備える』より「第9章 SARSとMERS-コロナウイルスによる重症呼吸器疾患」を公開しております。

◆『続・人類と感染症の歴史』の第9章「SARSとMERS」を公開します。

 

 

 

加藤茂孝(かとうしげたか)

 1942年生まれ、三重県出身。東京大学理学部卒業、理学博士。国立感染症研究所室長、米国疾病対策センター(CDC)客員研究員、理化学研究所チームリーダーを歴任し、現在は株式会社保健科学研究所学術顧問。

 専門はウイルス学、特に風疹ウイルス、麻疹・風疹ワクチンである。妊娠中の胎児の風疹感染を風疹ウイルス遺伝子で検査する方法を開発。著書に『人類と感染症の歴史―未知なる恐怖を超えて』(丸善出版、2013年)、『続・人類と感染症の歴史―新たな恐怖に備える』(丸善出版、2018年)がある

 

2020年2月13日公開

2020年2月20日更新

 

 

 

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