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サルに一番近い動物は何ですか?『化石が語る サルの進化・ヒトの誕生』より試し読み

本書のおすすめの項目を一部公開!

『知識ゼロからの京大講義 化石が語る サルの進化・ヒトの誕生』の魅力をほんの少しだけご紹介いたします。 

  


『知識ゼロからの京大講義 化石が語る サルの進化・ヒトの誕生』

高井 正成・中務 真人 著 定価:2,420円(本体2,200円+税10%) 四六判・220ページ

※本書の一部を公開しております。PDF版はこちら

 

  

  

 

ヒヨケザルかツパイという、東南アジアの動物です。

  

 



東南アジアの変わり者

  近年発達している分子生物学的研究によると、霊長類に最も近い現生哺乳類の系統は、東南アジアに棲息するヒヨケザル類ツパイ類とされています(巻末「分子系統図」参照)。ヒヨケザル類とは皮翼目(ひよくもく)とも呼ばれ、体の脇に飛膜と呼ばれる膜をもつ動物で、樹間を滑空して移動します。齧歯類(げっしるい)のムササビやモモンガとよく似ていますが、彼らの飛膜が手足の間にしかないのに対し、ヒヨケザルでは飛膜が首から尾までつながっています。ヒヨケザルは頭骨や歯の形が非常に特殊化しているので(図1)、形態学者の中では、長いこと現生哺乳類の「外れ者」として扱われてきました。しかし最近の分子生物学的研究で、意外に霊長類に近いことがわかりました。霊長類と分岐してから、急速に(形態的に)特殊化したのかもしれません。

 
 一方、ツパイ類は昔から霊長類に近縁とされてきた動物で、登木目(とうぼくもく)とも呼ばれています。こちらも東南アジアの熱帯森林に生息するトガリネズミに似た樹上性の小型哺乳類です。頭骨の形は原始的な哺乳類の姿に似ていて、長い鼻面と長い尻尾、特殊化していない歯列などをもっていたので、霊長類に含める分類学者もいたほどです(図2)。分子生物学的研究でも、この2種類の動物のうちどちらがより霊長類に近縁なのかはまだはっきりしません。いずれにしても、霊長類と系統的に分岐したのは、約8000万年前と考えられています。

 
 どちらの動物も現在は東南アジアにしか棲息していないのですから、霊長類の起源は東南アジアと言いたくなるところですが、彼らが分岐した頃の地球は、大陸の配置が今とはまったく異なっていて、東南アジア地域は南半球のゴンドワナ大陸(巻末「古地理図」❶)の一部でした。現生の動物との系統関係だけでは、霊長類の起源地を特定するのは難しそうです。

  

図1 ヒヨケザルの頭骨(A)と右下顎(かがく)切歯(B)。眼窩(がんか)の後には小さな突起ができていて、霊長類との近縁性を暗示しているようにも見えますが、下顎切歯は特殊化して、まるで「櫛」のようになっています。

 

図2 ツパイの頭骨。眼窩の周りに骨性の枠ができているので、原始的な霊長類のようにも見えます。

 

 


次に近縁なのはネズミとウサギ 

 では、ツパイやヒヨケザルの次に霊長類に近縁な動物は何でしょうか?それは、齧歯類(ネズミの仲間)とウサギ形類です。この両者が互いに系統的に近いという意見は昔からありましたが、霊長類と近いと考える研究者はいませんでした。彼らは犬歯が消失して切歯(せっし)(前歯)が極端に特殊化する傾向があるので、霊長類の祖先とはかなり離れた系統と考えられてきたのです。

 

 古生物学者にとって齧歯類やウサギよりも霊長類に近いと従来考えられてきたのが、翼手類(コウモリ)です。彼らは飛翔能力をもつという点で特殊化しているのですが、陰茎骨や盲腸があるといった点で霊長類と共通した特徴をもっていました。しかし分子生物学はコウモリを鯨偶蹄類(げいぐうているい)(ウシやクジラの仲間)、奇蹄類(きているい)(ウマやサイの仲間)、そして食肉類(ネコやイヌの仲間)と同じローラシア獣類という系統に含めてしまいました(巻末「分子系統図」参照)。クジラと偶蹄類の類似性や食肉類と奇蹄類の近縁性は昔から古生物学者が指摘してきたのですが、そこにコウモリが加わるとはまったく予想できませんでした。

 

 化石だけでは真の系統関係の解明は難しいようです。

 

 

『知識ゼロからの京大講義 化石が語るサルの進化・ヒトの誕生』(40頁~42頁より)

続きや巻末参照図等は本書をご覧ください。

 


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