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『数論入門I・Ⅱ 原書6版』序文を一部公開いたします。

『数論入門I 原書6版』『数論入門Ⅱ 原書6版』の序文の一部を公開しております。

第1版の刊行や改訂の経緯、また改訂ポイントなどがまとめられておりますので、ぜひご参照ください。

 


Andrew Wilesによる序文


 
 
私は数論を学んだ高校の先生に出会うという大変な幸運に恵まれた.彼の勧めで私はハーディ-ライトの素晴らしい本『数論入門』の第4版を入手した.この本とDav-enportのThe Higher Arithmetic(『高等算術』)はこの話題に関するお気に入りの入門書となった.(私が既に夢中になっていた)フェルマー問題に関する手がかりを求めて本のページを探し回る中で私は初めて数論の広がりを知った.本書の中盤の4つの章だけが2次体とディオファントス方程式に関するもので,それ以外の多くの話題は私にとって新しいものだった.ディオファントス幾何,端数のない数,ディリクレの定理,連分数,四元数,相互法則,等と続いていく.
 
本書は異なる分野の主題に進む出発点となった.私にとっての最初の探求は,代数的整数論,特にクンマーの理論についてより多くのことを見出すことであった.ある程度複素解析を学ぶまでは,より解析的な部分には当時それほど興味をひかれなかったし,想像力を真にかきたてられることはなかった.複素解析を学んで初めてゼータ関数の威力を理解することができた.いずれにせよ,後年になっても時々,新しい理論の一部に興味をひかれるたびに立ち返る出発点として本書はいつも傍らにあった.本書の成功の一部はその詳細な註釈と参考文献によるものである.これらは経験が浅い数学者に指針を与えてくれる.この部分はRoger Heath-Brownにより拡充され,21世紀の学生がより最近の発見や文献から恩恵を受けることができるようになった.これは彼が手掛けたTitchmarshのThe Theory of the Riemann Zeta Function(『リーマンのゼータ関数の理論』)の素晴らしい解説と同じやり方でなされている.これは新しい読者にとって大変有益であり,また若い頃に本書を読んだ人たちにとっても,かつての級友の近況を聞くのと少し似た,大変な喜びを与えることだろう.
 
付け加えられた最後の章では楕円曲線の理論について解説されている.この理論は(§13.6の註釈で短い言及がある以外)本書の元の版には書かれていないものだが,これはディオファントス方程式,そして特にフェルマー方程式の研究において重要であることがわかってきた.一方では,バーチとスウィンナートン-ダイアーの予想,他方では,フェルマー方程式との驚くべき結びつきを通して,楕円曲線は数論研究者の人生の核心部分となった.また,楕円曲線は,ガウスの有名な類数問題の有効な解決においても中心的な役割を果たした.これらはすべて本書が書かれた当時まったく思いもよらなかったことだろう.したがって,Joe Silvermanによるこの理論の明解な解説は本書の新版の最後にふさわしいものである.勿論これは理論の概略にすぎない.きっと読者は,それが人生の最良の部分ではないにしても,何時間にもわたり多くの謎を解き明かすために没頭する誘惑にかられることだろう.

A.J.W.


2008年1月

 

 

 


第6版への前書き


 

 この第6版では章末の註釈が大幅に増補された.これらが最後に改訂されてからなされた多くの素晴らしい進展を註釈に盛り込んだ.これらが関心を持った読者が現在の研究分野に進む道筋をつけることを望んでいる.いくつかの章の註釈は他の専門家の寛大な助力により執筆された.D.Masser教授は第4章と第11章の部分を,G.E.Andrews教授は第19章の部分を更新された.T.D.Wooley教授は第21章の註釈にかなりの量の新しい内容を付け加えた.第24章の註釈に対する同様の見直しはR.Hans-Gill教授が行った.これらの方々の助力に心から感謝する.
 
これに加えて,楕円曲線を扱う実質的に新しい章を付け加えた.この話題は,以前の版では言及されていなかったが,数論における中心的な話題になってきたので大きく扱うに値するように思われた.この内容はディオファントス方程式に関する既存の章と必然的に関連するものである.
 最後に,第5版のかなりの数の誤植を訂正した.誤植や数学的な誤りが多数寄せられたが,このような形で寄与した方々に感謝する.
 この新しい版を刊行することはJohn Maitland Wright教授とJohn Coates教授により提案された.彼らの熱心な助力に感謝する.

D.R.H.-B1
J.H.S2


2007年9月

1 [訳註]D.R. Heath-Brown
2 [訳註]J.H. Silverman

 

 


第5版への前書き


 

 この版における主な変更点は各章末の註釈にある.特定の話題をさらに追いたいと思う読者のために最新の参考文献を用意し,註釈と本文のいずれにおいても現在知られていることについて適度に正確な説明を与えるように努めた.このために非常に貴重な刊行物ZentralblattとMathematical Reviewsの関連した項目に頼った.しかし改善を示唆したり質問に答えてくれた多くの方々にも大いに助けられた.特に,私の要請に応じて長くとても有益な提案と参考文献をもたらしてくれたJ.W.S.Cassels教授とH.Halberstam教授に感謝する.
 定理445の新しい,より平易な証明と,無理数におけるテオドロスの方法に関する私の変化した見解について説明を与えた.この版を参照の目的で使いやすくするために,可能な限りページ番号を変えないようにした.この理由で,本文の適当な場所に題材を挿入するのではなく,素数の理論のある面についての最近の進展に関する短い付録を付け加えた.

E.M.W.


アバディーンにて
1978年10月

 

 

 


第1版への前書き


 

 本書は過去10年間にいくつかの大学で行った講義から徐々にできあがったもので,講義をもとにした多くの本と同様に,確固たる計画はない.
 本書はいかなる意味でも(専門家が目次を読めば想像できるように)数論を系統的に論じたものではない.数論の多様な理論のいかなる面に関する詳論も含むものではなく,これらの面のほとんどすべてを次々に概論したものである.通常は1冊の本にまとめられることのない,いくつかの話題について,また普通は数論の一部をなすとはほとんど見なされないことについて何がしかを述べている.たとえば,第12章から第15章は数の「代数的」理論に,第19章から第21章は数の「加法的」理論に,第22章は数の「解析的」理論に属している.一方,第3章,第11章,第23章,第24章は,通常「数の幾何」または「ディオファントス近似」という項目に分類される事柄を取り扱っている.本書で扱う話題は多岐にわたるが,深みはほとんどない.400ページ3の中で,これらの多くの話題のどれをも深く扱うことは不可能である.
 本書には,専門家なら誰でもすぐに気付く大きな不足がある.もっとも顕著なのは,2次形式の理論に関する説明がまったく省略されていることである.この理論は数論の他のあらゆる面よりも系統的に進展してきており,容易に手に入る本で優れた議論がなされている.我々は何かを省略しなければならなかった.そして我々には,2次形式が,数論の中で既存の解説に付け加えるべきものがもっとも少ない部分であると思われたのである.
 しばしば個人的な好みにより扱う項目を決定した.また,重要性よりはむしろ我々の好みや他の著者たちが我々に何か言う余地を残していることによって題材を選択した(それらのほとんどは十分重要ではあるが).我々が第1に目指したのは,おもしろい本を書くことであり,類書のない本を書くことであった.偏りすぎないようにすることで成功したかもしれないし,あるいは失敗したのかもしれない.しかし完全に失敗してしまったということはほとんどありえない.題材はとても魅力的なので,よほどの不備がない限り退屈なものにはなりえないだろう.
 本書は数学者向けに書かれているが,際立った数学的な知識や手法を何ら要求していない.最初の18章は高校までで一般に習うこと以外は何も仮定していないから,優秀な大学生にとっては比較的易しい読み物だろう.後半の6章はもっと難しく,ほんの少し多くのことを前提としているが,大学の課程の簡単な内容を越えるものではない.
 題名はL.E.Dickson教授のとても有名な本と同一である(共通の内容はほとんどないが).一時,題名をAn introduction to arithmetic(『算術入門』)に変えることを提案した.こちらの方が目新しく,ある意味でより適切な題名である.しかしこれでは本書の内容について誤解を招くだろうと指摘された.
 多くの友人が本書の準備に助力してくれた.H.Heilbronn博士は,草稿と印刷されたものの両方をすべて読んでくれた.彼の批評と提案により多くのとても本質的な改善がなされた.その中でもっとも重要なものについては本文中で謝意を表している.H.S.A.Potter博士とS.Wylie博士は校正刷りを読み,多くの誤りと不明瞭な個所を取り除くのを助けてくれた.彼らはまた,章末の註釈における参考文献のほとんどを確認してくれた.H.Davenport博士とR.Rado博士も本書の一部を読んでくれた.特に最後の章は,彼らとH.Heilbronn博士の指摘により,元の草稿とは全く違うものとなった.
 巻末の参考文献にあげた他の本,特にE.LandauとO.Perronの本から自由に借用した.数論を真剣に学ぶ者すべてと同様に,特にE.Landauからは言い尽くせないほどの恩恵を受けている.

G.H.H.
E.M.W.


オックスフォードにて
1938年8月

3 [訳註]原書のこと.

 

 


訳者前書き


 

 この本はイギリスの数学者G.H.ハーディとE.M.ライトによる著作“An Intro-duction to the Theory of Numbers”第6版の翻訳である.原著は1938年の初版以来,世界で広く読まれ,引用されている数論の古典である.数をめぐる非常に多岐にわたる話題を,簡潔に扱っているところに本書の特色がある.2008年に出版された第6版は,1995年に「フェルマーの最終定理」を解決したA.ワイルズによる序文,シルバーマンによる楕円曲線の章(第25章)を加え,数々の専門家により各章末の註釈が大幅に拡充された.
 第5版(日本語版)の訳者前書きに「訳者は数論の専門家ではないが,本書に現れる数論の様々な話題の多くをとてもおもしろいと思い,一見,雑多でありながら,簡潔かつ明快な構成に魅力を感じた.予備知識をあまり要しない一方,しばしば行間を補うのに努力を要し,問題を考える動機付けがわかりにくいこともあるだろう.しかし,苦労して読む価値のある,得るものがある名著である.日本の読者,特に高校生や大学生などの若い人たちに薦めたいと考え,翻訳を決意した.」と記したが,今も考えは変わっていない.若い人たちは勿論のこと,数学を愛好する方々すべてにお薦めする.
 改訂に当たっては,第5版の日本語版を元に,第6版で新たに加わった部分を訳出し,出版社(Oxford)が公開している原著第6版の正誤表を反映するとともに,訳者が誤植や数式の誤りと判断したその他の箇所も改めておいた.
 原著第6版の出版以降の進展について註釈を更新することは訳者の手に余るが,第13章と第25章の註釈で触れられている「abc予想」の望月新一による解決(2012年発表,2021年専門誌PRIMS(電子版)掲載)が新聞などで大きく報じられたことは記憶に新しい.
 2001年にシュプリンガー・フェアラーク・東京から第5版の日本語版が出版され,2012年に版権の譲渡を受けた丸善出版の方と原著第6版の翻訳についてお話してから10年を経てようやく出版の運びとなったことを大変喜ばしく思う.関わった多くの方々すべてに感謝の意を表する.


2022年1月

訳者

 


 

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