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『理科年表』について(學鐙 2021年冬号より)

「學鐙 2021年冬号」に掲載されております同記事の内容を、Web用に一部修正し公開しております。この機会にぜひご覧ください。

 

『理科年表 創刊号 復刻版』 (1998年)

 

 


『理科年表』について


 

 『理科年表』の紙面はほとんどが図表であり、最小限の解説が付いているだけなので、目的のデータを調べる以外はとっつきにくいという印象がある。しかし、巻頭の「暦部」には「国民の祝日」、「二十四節気、雑節」が載っているなど硬質な科学データばかりではなく、拾い読みをしていくと「ほう」とか「えっ?」という出合いがある。たとえば、立花隆さんは2005年に開かれた「理科年表80周年記念シンポジウム」の講演で「『理科年表』にはキリンやカエルの血圧が載っている」と指摘されて、意外性に満ちている『理科年表』の魅力を語られていた。

 

 『理科年表』は小社の刊行物の中で最もよく知られているといって過言ではないが、誕生の経緯やその後の推移はほとんど知られていないと思われるので、この機会に2009(平成21)年に開かれた「日本の天文学の歩み―世界天文年2009によせて―」(東京大学附属図書館 特別展示会)で展示された『理科年表』の中村士先生(元国立天文台、当時・帝京平成大学教授)による解説を紹介したい。

 

 
『理科年表 創刊号』(東京天文台、一九二五(大正一四)年、東京大学柏図書館所蔵

 

 
この当時、東京天文台には本格的な天体暦を発刊する計画があったが、海軍省水路部の同様な計画と競合したために、「理科年表」と名づけた簡便な天体暦の発行で妥協せざるを得なかった。ポケット版で、天文・暦の記事とデータ以外に物理、化学、気象などの科学データも収められている。その理由は恐らく、サイズも内容もよく似ているから、フランス経度局が発行していた『経度局年鑑』を参考にしたためと考えられる。なぜなら、東京大学では、最初のお雇い天文学教師エミール・レピシエが1872(明治5)年に持参して以来、その後ずっと購入されていたし、この発行元は寺尾寿(初代の東京天文台台長)が留学していたパリ天文台だったからである。『経度局年鑑』の方は1970年代に他の出版物に統廃合されたので、この種の総合的科学データブックとしては、現在「理科年表」が世界で唯一であろう。

 

 次に、創刊後の推移が『丸善百年史』(1981(昭和56)年)に載っているので、これを抜粋して以下に引用したい。

 

 大正14年に第1冊を東京天文台が発行し、昭和18年の第19冊までは毎年の版を当社が払い下げを受ける形式で発売所となっていた。19年から21年まで3年間休刊したので、昭和22年が第20冊目となったが、この時から名実ともに当社が発行所となった。東京天文台の重要な職務のひとつに暦の作成があるが、「理科年表」はこの暦を巻頭におき、第1頁目にその年の基本的な資料を掲げている。現在でも神武天皇即位紀元年を記載しているのは、明治31年5月11日勅令第90号によって、紀元年を4で割り切れる年を閏年と決められているからである。

 

 以上を若干補足すると、1947(昭和22)年から現在まで毎年刊行され、先月出版された『理科年表2022』で95冊目となる。また、神武天皇即位紀元年を記載していたのは1984(昭和59)年までで、それ以降は記載されていない。

 

 『理科年表』は暦部、天文部、気象部、物理/化学部、地学部、生物部、環境部の7部門と附録からなり、昭和59年版で生物部、平成17年版で環境部が新設されて現在の部門構成にいたっているが、基本的な掲載スタイルは創刊当時からほとんど変わっていない。『理科年表』本体に「環境部」が加わる前の2003(平成15)年に『理科年表 環境編』が出され、これは2009年に『環境年表』となって現在は隔年で出版されている。

 

 1996(平成8)年に『理科年表CD-ROM』を発行。これは創刊以来のすべてのデータを一枚のCD-ROMに搭載したもので、図表いずれもダウンロードができる。書籍にはないカラー画像の搭載、数値データのグラフ化、各種データの長期にわたる推移の作成などを行うことができ、『理科年表』の使い道を広げる意図でつくられた。現在はCD-ROMに代わりウェブ版の『理科年表プレミアム』で全データを閲覧・ダウンロードできる。なお、「理科年表オフィシャルサイト」ではバックナンバーから選んだトピックス記事(一部、後日談も書き下ろしで掲載している)を読むことができ、またデータの背景となる基礎知識、用語や数字の意味、理論と現象、データの活用方法、関連情報などが解説されている「理科年表徹底解説」や「FAQ」を閲覧できる。

 

(文責「學鐙」編集室)

 


 

本記事は學鐙2021年冬号(第118巻第4号)にも掲載されています。
 

 

■學鐙 2021年冬号(第118巻第4号)目次 

目次

▼私のすすめる三冊 ・・・ 岡崎 武志(フリーライター・書評家) 
            
▼特集 身体 
個我の絶対性 ・・・ 村上陽一郎(東京大学・国際基督教大学名誉教授)             
仮面と身体 ・・・ 吉田憲司(国立民族学博物館長・総合研究大学院大学教授)
愛執と発心 ・・・ 山本聡美(早稲田大学教授)
デザインと身体 ・・・ 橋田規子(芝浦工業大学教授)
ソースコードとしてのDNA ・・・ 柞刈湯葉(SF作家)
細胞からみた身体 ・・・ 仲野 徹(大阪大学大学院教授)
生物の生きるペースは体温で決まる ・・・ 渡辺佑基(国立極地研究所准教授)
人はなぜ薬物依存症になるのか ・・・ 松本俊彦(国立精神・神経医療研究センター薬物依存研究部 部長)

▼書評〈I〉
村山由佳 著
風よ あらしよ ・・・ 下重 暁子(作家)

池内 紀 著
すごいトシヨリBOOK ・・・ 河谷 史夫(家事見習い)

▼連載
庶民の娯楽(7) ・・・ 神崎 宣武(民俗学者)
科学徒然草(35) ・・・ 小山 慶太(早稲田大学名誉教授・科学史家)
音を編む(32) ・・・ 矢崎彦太郎(指揮者)

▼書評〈II〉  
中欧・東欧文化事典編集委員会 編
中欧・東欧文化事典 ・・・ 木畑洋一(東京大学・成城大学名誉教授)             

神沼克伊 著
地球科学者と巡るジオパーク日本列島 ・・・ 斎藤良太(毎日新聞津支局長・前東京科学環境部デスク)
      
『理科年表』について 「學鐙」編集室

 

 

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