内容紹介
本書はミクロの微細組織病理学が主体となっている。法医学の観点からの組織病理学的微細構造を統合してまとめた教科書としては本書が初めての試みであった。法医学上の一般的な所見のほかに、著者が様々な問題点を提起して将来に向けた展望を広げている。臨床で見られる人体のあらゆる損傷に対する組織構造の変化を明らかにすることを目的として構成し、イラストと図表を含め多数の組織写真を用いて、わかりやすく著述しており、更に詳細な文献の調査も行っている。法医学的な見地からは、麻薬、薬物、アルコール等によって損なわれた組織学的変化が明示されている。また損傷による物理的、化学的な組織の損傷と、死後損傷の基礎的問題点が明確に示されている。法医学的な人体損傷の鑑定には、組織学的検査所見を検討することが必須で、科学的鑑定上重要になると考えられる。本書は、法医学的鑑定の科学的信頼性を高めることができる専門的教科書。
目次
A. 序論
I.法医組織学の主題と役割
II.法医学的証拠としての組織学的検査の所見
III.データ収集と検査技術
B.総論(一般的反応)
I.死後変化(死の組織学)
1 自己融解と腐敗
1.1 総論
1.2 各論:特定の細胞と器官の所見
2 組織学的死亡時刻判定
3 発掘した埋葬死体の組織学検査
II.生活反応
1 出血
1.1 原因,組織形態学,変性
1.2 死後変化
2 機械的に起こる組織損傷
2.1 始まり方と組織形態学
2.2 創傷治癒
2.3 外傷と出血の経過時間判定
2.4 組織再構築あるいは次のステージへの移行
3 血栓症と塞栓症
3.1 成層血栓と凝集性血栓:血栓塞栓症
3.2 脂肪塞栓症
3.3 空気塞栓症
3.4 羊膜塞栓症
3.5 組織塞栓症と異物塞栓症
4 吸引(誤嚥)
III.酸素欠乏
1 全身・限局性酸素欠乏
2 細胞と臓器の特異的所見
IV.ショック
1 基礎的および全般的な組織形態学
2 ショックにおける特殊な臓器所見
3 アレルギー
V.個人同定への組織学の貢献
1 種類と器官の特定
2 個体の特徴
C.各論(特殊な状況下)
I. 内因性急死
1 前置き
2 診断上の問題
II. 妊娠-中絶-堕胎(法医産婦人科学)
1 妊娠:母体の死亡
2 流産-中絶(人工妊娠中絶を含む)
3 堕胎と周産期死亡
3.1 生産か死産かという問題
3.2 死因についての問題
III.大気の作用による損傷
IV.頸部圧迫:縊頸-気道閉塞-扼頸
1 概論
2 頸部の所見
3 内臓への影響
V.溺死-水中で見つかった死体の変化
1 水中での変化
2 溺死の診断に対する組織学の貢献
VI.熱傷と寒冷による傷害
1 局所性・全身性熱傷-焼死体
1.1 皮膚・皮下損傷
1.2 熱傷総論
1.3 焼死体
2 全身性熱損傷-熱傷死(火傷死)
3 低体温症による死
VII.電気による損傷
1 概論
2 電気損傷-熱による損傷
3 内臓所見
VIII.放射線と超音波による損傷
1 概論
2 早発性・遅発性の細胞と臓器の障害
3 超音波による損傷
IX.飢餓の組織学的所見
1 原因と定義に関する総評
2 器官と組織の所見
X.銃創の調査に対する組織学の貢献
XI.中毒の組織学的所見
1 前書き
2 中毒に特異的な組織形態学
2.1 無機性毒素
2.2 有機毒素
2.3 農薬
2.4 真菌
2.5 薬物