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【書評】カーボンニュートラルへの化学工学〔早稲田大学 教授 松方正彦〕

『カーボンニュートラルへの化学工学』は、CO2の分離回収・利用、水素やアンモニアなどの炭素フリー燃料といった個々の技術から、エネルギーシステムまで解説した、化学工学分野のカーボンニュートラル入門書です。

この度、化学工学会 会長である、早稲田大学 教授 松方正彦先生に書評をご執筆いただきましたので、ご紹介いたします。

 

 

 

カーボンニュートラルへの化学工学 CO2分離回収,資源化からエネルギーシステム構築まで

化学工学会 編 定価:3,190円(本体2,900円+税10%) A5判・並製・256頁

 

 『カーボンニュートラルへの化学工学』と題した,化学工学を中心とした技術の展開と課題を紹介しながら,カーボンニュートラル実現に向けた取り組みを示した書籍が出版された。化学工学は基礎・基盤研究の成果を社会実装するための技術・方法論を提供する学術分野であり,かつ単位操作の集合体としての工業プロセスの構成はもちろんのこと,社会システムの最適解を提供する分野であることから,カーボンニュートラルの実現に対して化学工学の貢献が大いに期待される。本書は,化学工学を専門とする研究者・技術者がカーボンニュートラルを実現するための技術開発の現在地と,社会実装に向けての将来像が的確にまとめられており,まさに時機を得た書である。

 第1章では,はじめにカーボンニュートラルの概要が述べられ,代替エネルギーの導入,CO2の分離回収,CO2の貯蔵・利用などについて説明されている。また,社会的・経済的な側面からも取り組みを進める必要性が示されている。第2章では,CO2の分離回収技術について紹介されている。吸収液法や吸着・固体吸収法,高炉ガスからのCO2分離回収技術,冷熱を利用したCO2回収の新しい技術などが解説されており,現状の技術課題や開発の方向性についても考察されている。第3章では,再生可能エネルギーとカーボンフリー燃料について述べられている。太陽電池や風力発電,大規模水素輸送システム,アンモニア混焼などが紹介されており,また,社会的摩擦や受容性についても触れられ,再生可能エネルギーの導入に対する社会的・経済的な側面の重要性も示されている。第4章では,CO2の利用技術について紹介されており,メタネーションの事業化展望や,再生可能エネルギーを利用したCO2からの燃料製造などが解説されている。第5章では,新しいエネルギーシステムの開発や再生可能エネルギー施設の社会的受容など,カーボンニュートラルの実現に必要なアクションが取り上げられて,ステークホルダーの役割や,循環型経済がもたらすメリットについても述べている。最後に第6章では,再生可能エネルギーだけで将来のエネルギー需要を満たすことができるのかといった多くの方が感じる本質的な疑問に対する議論,今後の技術的・システム的な導入課題の検討などが提供され,本書の内容が総括されている。

 この種の解説書には珍しく各章には演習問題が配置されており,読者は各章で提供される重要な情報を整理し,自分自身の理解度を確認できるようになっている。優れた特長と考えられる。カーボンニュートラルに関心のある方や,化学工学を学んでいる方にとって,非常に役立つ書籍として推薦したい。

〔早稲田大学 教授 松方正彦〕

 

 

*こちらの書評は「化学工学」2023年4月号にも掲載されています。

  

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