内容紹介
死に至る病がすぐそこにある。……といわれてもなかなか想像がつかないかもしれない。しかし、2014年には「エボラウイルス病(エボラ出血熱)」によって西アフリカを中心に1万人を超える人が亡くなり、日本国内でも感染の疑いのありといわれて緊張が走る瞬間があった。また、「梅毒」として報告された患者数は調査が始まって以来最多となっている。実は感染症は案外身近に潜んでいて、人間のすきを狙っているのかもしれない。
本書では前作とは異なる、現代日本でも身近な8つの感染症について、どのように感染症が発生したのか、広がる感染症に医療や行政がどのような対策をしてきたのかをひもとく。好評だった医学や生物学の専門知識がなくても読み進められる語り口はそのままに、知っておきたい感染症の知識が詰め込まれている。
目次
第1章 「2014年夏」
I.「1914年夏→2014年夏」
II.なぜ2012〜2014年に、風疹流行とCRS発生か?
小さなデモ行進/なぜ流行したのか?/風疹流行の世界的な視点/風疹排除、CRS根絶を目指して/ACIP様の組織の設立を
III.登場する新顔
鳥インフルエンザの新顔 H7N9/マダニによる感染症SFTF/デング熱
第2章 「HIV/AIDS」――チンパンジーから入った20世紀の病
I.衝撃的な写真
II.突然の登場、1981年
III.いつから存在していたのか?
1979年の保存血/元をたどればアフリカのサルのウイルスだった/アフリカで拡散/アフリカから外へ/HIV—2の存在
IV.ウイルス分離
HIVに先行していたHTLVの分離/エイズのウイルス分離競争と特許権争い
V.ウイルスの構造
VI.HIVの感染とエイズの発症
CD4リンパ球に結合/HIV感染の初期症状/死亡原因は他の感染症/体内のどこにウイルスがいるか?
VII.抗ウイルス薬
発見と治療への希望/エイズ死亡者の減少/薬の高価さ/患者減少への期待
VIII.遺伝子型の分布
IX.血液製剤——血友病患者の悲劇
ライアン・ホワイト/日本の血液事業の特殊性/エイズ研究班/郡司課長の弁明/なぜ回収が遅れたのか?/失われた2年/薬害エイズ訴訟/和解/フランスとカナダ/誓いの碑
X.ワクチン開発の困難さ——ウイルス変異の速さ
XI.対策の難しさ
日本ではHIVキャリアは増え、エイズ患者は減っていない/賢いウイルス——HIV対策の難しさ
XII.エイズの研究、対策組織、法律
世界的には/日本では
XIII.いろいろな社会問題、悲劇
第3章 「ハンセン病」――苦難の歴史を背負って
I.『いのちの初夜』
II.いつごろからあったか?
III.日本での名称の変遷
白癩/「癩」、「癩病」・かったい/レブラ/ハンセン病
IV.病原体と病変
V.生活用水? 水棲微生物?
らい予防の法律/らい予防の法律改正/癩予防法/らい予防法/らい予防法廃止
VII.治療薬の発見
VIII.光田健輔
IX.なぜ、日本は隔離が長かったのか?
X.ハンセン病補償法と反省の石碑
XI.患者(世界と日本)
XII.文学者、詩人、歌人
生田長江/明石海人/桜井哲夫/塔和子/谺雄二
XIII.ハンセン病に関する文学的著作
小川正子『小島の春』/神谷美恵子/大本教と高橋和巳『邪宗門』/松本清張『砂の器』/遠藤周作『わたしが・棄てた・女』/ドリアン助川『あん』/崔南龍と佐川修
XIV.ハンセン病にまつわるエピソード
ベン・ハーの奇跡は何か?/光明皇后伝説/癩王のテラス/16世紀の清水坂/大谷吉継と石田三成/姫塚伝説/草津における焼き鏝療法?
第4章 「狂犬病」――パスツールがワクチン開発
I.鉄格子の病室
II.世界の現状
III.いつから存在していたのか?
古代の記録/吸血鬼は狂犬病か?/日本の記録/日本における大流行
IV.狂犬病の発生機序
初期の成果/アセチルコリンレセプターから侵入
V.ワクチン開発とパスツールが助けた少年
VI.ウイルス
VII.コウモリなどにもいる
VIII.治療の試み
IX.近藤ワクチン
X.注意! 犬は足で蹴飛ばせ
XI.犬の免疫こそ最大の効果
XII.輸入感染症
XIII.[犬→人]以外の感染経路
角膜移植/臓器移植/肉食/狂犬病患者は人を咬むか?
第5章 「マラリア」――ツタンカーメンも感染、パナマ運河開通の遅れ
I.戦争マラリア
「荒法師」玉乃海の発熱/八重山諸島の悲劇
II.いつから存在したのか?
50万年前?/アレキサンダー大王と平清盛の死因?/マラリアが死因と思われる著名人/マラリアの語源
III.病原体
ヒトには4種のマラリア/サル起源/複雑な生活環
IV.症状と回帰性
V.媒介する蚊
VI.マラリアに対抗するためのヒト遺伝子の変異
鎌状赤血球症/地中海貧血/G6PD欠損症/楕円赤血球症/ダフィー抗原陰性
VII.パナマ運河の成功は蚊の対策の成功
VIII.マラリアの現状
流行地域/医療インフラや衛生環境のレベルと流行/三大感染症
IX.抗マラリア薬の開発
キナ/キニン/クロロキン/メフロキン/アルテミシニン/マラロン/抗マラリア薬の一斉投与は有効か?
X.マラリア対策の現状と問題点
現状/問題点/成功した対策/今後の対策
XI.ワクチンの開発
XII.他の感染症との関係
エボラ出血熱の影響/梅毒の進行性麻痺のマラリア療法
第6章 「梅毒」――コロンブスの土産、ペニシリンの恩恵
I.『南京の基督』
II.コロンブス時代に持ち込まれた?
III.病気名称の由来
IV.伝播の速度
V.梅毒感染者かもしれない人
VI.病原体、症状
VII.近世における梅毒をめぐる状況
ファッションへの影響/最初は自慢された?/江戸時代後半
VIII.診断・治療の歴史
診断:ワッセルマン反応/ユソウボク/水銀療法/化学療法:サルバルサン/ペニシリン/進行性麻痺の三日熱マラリアによる治療
IX.進行性麻痺の原因であることの証明
X.梅毒の国家管理
国家管理の始まり/日本における娼妓への強制検査・治療施設/日本における軍隊の対策
XI.悲惨な梅毒臨床実験
タスキーギでの臨床実験/グアテマラでの臨床実験
XII.流行の現状
XIII.性活動で感染する可能性のある疾病
第7章 「コレラ」――激しい脱水症状
I.『赤い天使』と『インパール』
II.コルカタの患者
III.病名の起源
IV.病原体
病原体/O抗原/コレラ毒素
V.流行の世界史ほか
古典型の世界的流行/英国での対策の成功/エルトール型の出現
VI.コレラで死亡した人物
VII.日本での流行
輸入感染症/梁川星巌のエピソード/江戸幕府の幸運/コレラ対策での殉職者/玉川上水の水質確保目的で三多摩を東京都へ移管/トルコ軍艦内での流行/コレラ船/戦後の散発
VIII.症状
IX.治療
ORS/抗菌薬
X.予防
ワクチン/プロバイオティクス
XI.流行地への旅行者への注意
XII.世界の現状、日本の現状
XIII.細菌学の新しい進展
VBNCコレラ菌/メタゲノム解析/保存検体からのコレラ菌の再構成/菌の遺伝子検出による迅速診断
第8章 「エボラウイルス病」――コウモリ由来の病?
I.2014年の驚き
II.1976年、キラーウイルスの突然の出現
III.症状
IV.病原体:糸状のフィロウイルス
形態/エボラは古いウイルス?/マールブルグウイルス
V.コウモリが持っていた?
VI.2014年、西アフリカでの拡散と文化の影響
予想外の拡大/伝統的な葬儀習慣/住民の反発/カーン医師の貢献/米国への拡散/国境なき医師団の早い取り組みと限界/WHOの対応の遅れ/医師の不安/日本の滑動/患者数
VII.治療と予防
VIII.危険病理体の分類と高度安全実験室
IX.日本における感染症指定医療機関
X.エボラの余波
XI.広がりの速さ——航空ネットワークの発展のスピード
第9章 「SARSとMERS」――コロナウイルスによる重症呼吸器疾患
I.2003年の米国
II.ウルバニ医師によるSARSの発見と死
III.CDCの研究チーム
IV.SARSの症状
V.SARSの病原体
VI.疑われたハクビシンとコウモリ
VII.香港のホテルで起こったことと北京の緊張
VIII.WHOの緊急ではない渡航の自粛勧告
IX.SARSの教訓
X.2012年中東でMERSの出現
XI.韓国への飛び火
XII.韓国における流行の背景
XIII.備え
第10章 「常に備えを」―― 進歩する医学、しかし感染症は絶えない
I.我らの時代
II.健康レベルの向上
主要死因の変化と長寿化/医療の質の向上/医学研究と医療技術の進歩
III.新興感染症の絶えざる出現
動物との接触頻度の増加/航空網の発達
IV.抗菌薬の問題点
耐菌性の出現
V.備える
そして人——備えの重要性/長期的かつ広い視野で意見を結集/情報発信でパニックを減らす/平和の大切さ
VI.我らの時代は何か?
あとがきにかえて
I.天然痘
残っていた痘瘡稲荷/小山肆成——独自に種痘法開発/米国で生きている天然痘ウイルスが保存されていた/天然痘の小説/ウイルス遺伝子から見た進化
II.ペスト
ニュートンの3大発見とペスト/インドでの部落焼却/ペスト菌の遺伝子の進化/2017年マダガスカルのペスト
III.メキシコの衰退はチフス?
IV.結核
チェーホフは結核死/高田畊安
V.麻疹排除へ近付く
VI.京都ジフテリア予防接種禍事件の和解
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