内容紹介
本書は、伝統宗教を生きる北米先住民族の人々が文化交渉状況において主体的に語った神話テクストを読み解こうとするものである。イエズス会宣教師と狩猟採集民との間にある文化と宗教の違いによる誤解、ホピの予言の歴史的形成過程や文化交渉によって変化をみせた各部族に伝わる神話、カンニバルの怪物ウィンディゴ伝承などを考察している。また、伝統が変わりゆく中で、首長らがいかに伝統を維持、回復しようと試みているかを描きだしている。
目次
序 章 歴史と文化交渉から考える北米先住民族の宗教と神話
初めに/北米先住民族研究における宗教と神話/神話―聖なる物語/グローバルな文脈と先住民性/「先住民性」概念の問題点/先住民性の異種混淆性と液状化/文化接触から文化交渉へ/終わりに
第一部 文化交渉における他宗教の誤解
第一章 一八世紀のイエズス会宣教師とアルゴンキアン族との間の文化交渉
初めに/イエズス会士の書簡/「ビーバーの骨」と「笑い」に見る非対称的な差異の状況/夢見の誤解/終わりに
第二章 ホデノショニ(イロクォイ)神話における「母なる大地」を巡る宗教史学的考察
初めに/『母なる大地』と宗教史学における歴史学的側面/テクストとしての神話の歴史的成立過程/「我らの母、大地」の大地性と神話的存在者の系譜学的考察/終わりに
第二部 多様な文化交渉と先住民族の宗教的・神話的世界
第三章 ホピの神マーサウを巡る歴史と神話
初めに/グローバル時代の先住民族宗教の研究/民族学誌に見るマーサウ/「歴史」におけるホピとマーサウ/終わりに
第四章 盲目の語り手ガハンドルが語ったハイダ神話
初めに/神話語りの社会性とパフォーマンス性/ガハンドルの生涯と歴史/神話の時間/ハイダの天候の変化についての神話/終わりに
第五章 ディネ(ナヴァホ)とホピにおける「思う(創る)女性(蜘蛛女[蜘蛛婆])」と織物の起源
初めに/蜘蛛女と織物の起源についての神話/世界創世神話における蜘蛛女(蜘蛛婆)/岩絵と蜘蛛女/日常性と聖性―あやとりと地形に見る神話的出来事の痕跡/終わりに
第六章 カンニバルの神話的怪物ウィンディゴを巡る歴史と人格変容
初めに/ウィンディゴ研究概説と本章の視点/ウィンディゴ表象/道徳的教えとしてのウィンディゴ/ウィンディゴ―神話と人格変容の間/終わりに
第七章 ホピの昆虫神話にみるホピ的自然観と変化
初めに/自然環境と神話/神話の一般性から神話の語り手の歴史的特殊性へ/ホピ世界における「昆虫」の位置づけ/昆虫に関する神話伝承/考察/終わりに
第三部 人物史から見る文化交渉と宗教的・神話的世界
第八章 ジョン・A・ギブソン―カナダ、オンタリオ州、
シックス・ネーションズ・リザーブの伝統主義者セネカ世襲首長の伝記―
初めに/若きジョン・A・ギブソン―ラクロース選手/ギブソン家の親族問題/イロクォイ連合の伝統的ロングハウス首長としてのジョン・A・ギブソン/SNRの内政におけるギブソンの役割/ギブソンの儀礼に関する知識/歴史の中におけるギブソンの神話語り/ギブソンの死/終わりに
第九章 カユガ世襲首長ハタハッ・イクレㇷタ(ジェイコブ・E・トーマス)
― シックス・ネーションズ・リザーブにおける伝統的言語の保存と継承の試み―
初めに/ハタハッ・イクレㇷタ(ジェイコブ・E・トーマス)/トーマスの試みの歴史的背景/ジェイク・トーマス・ラーニング・センター(JTLC)/トーマスの試みへの反応/終わりに
第一〇章 ハイダの芸術家ビル・リードの芸術作品に見られる二重の他者性と先住民性
初めに/ビル・リードにおける先住民性とは/リードの生涯と先住民性/先住民性の場所性とリードの芸術作品の他的場所性/二重の他者性の表象としての《ハイダ・グワイの精神》/終わりに
終 章 各章を振り返って
注
索引
あとがき
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