内容紹介
本巻は生命倫理学の思想的、かつ哲学的な捉え直しを試みるという意味で、問題設定の視座が広い。全部で11本の論攷からなっているが、例えば、尊厳概念のような基底概念への目配り、日本文化や経済学など異分野との繋がりを通してみた時の捉え直し、あるいは広く文明論的視座に立った時の生命倫理の定位など、そのいずれもが独自の観点から、いまや通常学問化しつつある生命倫理学に対峙して、今後の生命倫理学の全学問分野における位置価の拡大と深化に繋がる問題群が提示されている。
目次
第1章 虚構に照射される生命倫理
1 事実と虚構との接触
2 臓器移植社会の虚構的近未来
3 代理母制度の虚構的侵犯
4 虚構の影の下で
第2章 メタバイオエシックス
1 「名」と「定義」
2 従来のバイオエシックス批判
3 「メタ・バイオエシックス」と「メタバイオエシックス」
4 メタバイオエシックスの構想
5 「新たなバイオエシックス」に向けて
第3章 現代無常論
1 寺田寅彦の「天然の無常」論
2 唐木順三の「無常」論の語り方
3 「おのずから」の働き
4 「みずから」の営み
5 「人間はなお荘厳である」
第4章 生命倫理学は医学医療のしもべか
1 倫理とは何か
2 科学技術の倫理
3 医学医療を支える倫理的価値
4 生命倫理学の役割
第5章 生命倫理学から生存学へ
1 それは「学問」ではない
2 すでに決着したかのような
3 しかしやはり倫理は問われる
4 別の流れを汲む別の倫理
5 それを生存学だということもできなくはない
6 いずれにせよ知り書くべきことがいくらでもある
7 発信について
第6章 まるごと成長しまるごと死んでいく自然の権利――脳死の子どもから見えてくる「生命の哲学」
1 長期脳死という状態
2 脳死の子どもからの臓器摘出
3 「聖なる存在」と「まるごとの原理」
4 「まるごとの原理」と生命倫理
5 「自然の権利」としての「まるごとの原理」
第7章 市場経済と生命倫理
1 市場理論の系譜
2 市場経済の前提
3 「効率」がもたらす弊害
4 「自己決定権」の限界
5 経済と倫理・市場と社会
第8章 「尊厳」概念再考
1 「生命の尊厳(SOL)」と「生命の質(QOL)」
2 現代的尊厳概念の確立と死の再定義
3 尊厳概念の歴史とその展開
4 尊厳の平等化
5 人類史における「尊厳」概念の萌芽
6 尊厳概念成立とその言語象徴化
第9章 欲望の爆発は防げるか?
1 なぜ、欲望は爆発するのか?
2 欲望の爆発は人間を幸福にするか?
3 欲望の爆発は防げるか?
第10章 人類の未来
1 科学文明のゆくえ
2 ナノテクノロジーとバイオテクノロジー
3 「分子職人」としての人工タンパク質
4 変化する倫理観
5 拡大しすぎた知の地平
6 科学の限界と技術水準の低下
7 人工生命の脅威と新生代の終焉
8 科学の三つの弱点
第11章 生命倫理に何ができるか――その現状と未来に関する覚え書き
1 生命倫理は御用学か
2 生命倫理は実学か
3 「生命倫理=医療倫理」か
4 生命倫理に正義はあるか