生命と科学技術の倫理学

生命と科学技術の倫理学

デジタル時代の身体・脳・心・社会
著者名 森下 直貴
発行元 丸善出版
発行年月日 2016年01月
判型 A5 210×148
ページ数 278ページ
ISBN 978-4-621-30017-6
Cコード 3040
NDCコード 407
ジャンル 人文科学 >  倫理学 >  医療倫理
人文科学 >  倫理学 >  生命倫理
人文科学 >  シリーズ人文科学 >  現代社会の倫理を考える

内容紹介

今日の科学技術の「デジタル化」には、「情報ネット化」と「身体サイボーグ化(=身体とネットにつながるコンピュータ制御機器との融合)」がある。本書ではそのうち後者の動向に注目しながら、生命倫理から脳神経倫理、エンハンスメント(人間の能力や人間性の改造)倫理、動物倫理、ロボット倫理に至る科学技術の話題を取り上げる。具体的に論じられるテーマは予防医学の先制化とサイボーグ改造、国民の欲望としての健康、胚の全能性と改変、脳と機械との接続、人格の改造、動物改造、ロボットの権利などである。これらの話題は従来の科学技術倫理学テキスト(工学倫理・環境倫理・科学倫理・情報倫理が中心)には見当たらない。本書では、「人間観の再構築、過剰化する欲望の自制、リスクをめぐる対立の解消」という視点から、従来のテキストでは扱われなかった上記のようなテーマを中心に、これからの時代に求められる新しい科学技術倫理学テキスト。

目次

序章 科学技術の倫理学への導入(森下直貴)
 1.倫理学の基本的な枠組み
  1.1 コミュニケーションと自己解釈
  1.2 意味と区別(分割線および境界線)
  1.3 システムと三つのオーダー
  1.4 意味コミュニケーションシステムとしての社会
  1.5 システムの構造としての倫理
 2.現代社会と科学技術システム 
  2.1 機能分化と技術
  2.2 機能システムと組織
  2.3 全体社会と機能システム連関
  2.4 科学技術システムとデジタル化
 3.科学技術倫理学とその課題
  3.1 全体社会の中の科学技術倫理
  3.2 科学技術の「倫理問題」
  3.3 科学技術倫理学の三つの基本課題
第1章 予防医療の最高段階としての「先制医療」(村岡 潔)
 1.予防医学とは
 2.「先制医療」とその理論的脆弱性
 3.「先制医療」と生活習慣病との関連
 4.生活習慣病から見た予防医学のしくみ
 5.「先制医療」の可能性・将来性について
  5.1 過剰診断――発症前診断のフラクタル化
  5.2 予防医学(1次予防)の判定効果はアポリア(難題)
 6.「先制医療」への期待と宿題 
第2章 新しい健康概念と医療観の転換(松田 純)
 1.WHOの健康定義の弊害
 2.健康の新たな定式化が求められる
 3.新しい健康概念の理論的背景
  3.1 健康と病気の連続性
  3.2 首尾一貫性感覚(sense of coherence:SOC)
  3.3 ナラティブによる意味の再編成と緩和ケア
  3.4 概念枠組みとしての「健康」
 4.HALによる改善効果と健康概念
 5.iBF仮説と脳・神経可塑性
 6.先端医療開発のあるべき方向性
第3章 スポーツを手がかりに考えるエンハンスメント(美馬達哉)
 1.正常と異常
 2.アノマリーと病理
 3.エンハンスメントとパーフェクトであること
 4.エンハンスメントとアチーブメント
 5.エンハンスメントを超えて
第4章 モラル・バイオエンハンスメント批判――「モラル向上のために脳に介入すること」をめぐって(森下直貴)
 1.モラルエンハンスメントからモラル・バイオエンハンスメントへ
 2.モラル・バイオエンハンスメントに対する3つの反論群
 3.道徳性とシステム間の〈変換構造〉
  3.1 諸システムの交錯・交流とその結節点
  3.2 変換構造の理論化へ向けて
  3.3 人間システムと社会システムの間の変換(転換) 
 4.グローバルな危機と道徳心理
 5.介入による実現可能性と自由の問題
  5.1 前提
  5.2 検討
  5.3 小活
 6.モラル・バイオエンハンスメントに対する限界の画定
 7.再び、モラル・バイオエンハンスメントへ
第5章 反社会性パーソナリティ障害者と自由意思(久保田進一)
 1.脳神経学の成果からの脳神経倫理学
 2.刑事責任能力
  2.1 犯罪とは
  2.2 精神障害者の犯罪における責任能力
 3.反社会性パーソナリティ障害者について
  3.1 反社会性パーソナリティ障害者とは
  3.2 反社会性パーソナリティ障害者への治療
  3.3 サイコパスの様々な捉え方
 4.反社会性パーソナリティ障害者の責任能力という問題点
 5.脳神経科学と自由意思
 6.自由意思における自律性と自発性
 7.自由意思にもとづかない社会制度を構築する前に考えること
 8.倫理学の概念を変えうる脳神経科学
第6章 犯罪者の治療的改造(稲垣恵一)
 1.犯罪者への薬物投与というエンハンスメント
 2.日本の刑務所では何が行われているのか?
 3.刑務所は受刑者を矯正しているのか?
  3.1 自立できないようにしつける刑務所生活
  3.2 働けなくさせる刑務作業
  3.3 反省を促さない刑務作業と反省教育 
 4.ジェームズ・ギリガンの犯罪防止プログラム
 5.経済発展と教育による犯罪防止
 6.懲罰から教育矯正へ
  6.1 作業
  6.2 改善指導
  6.3 教科指導
 7.治療的解像は教育矯正に代替しうるのか
 8.モラル・バイオエンハンスメントの利用できる対象と限界  
第7章 動物に対するエンハンスメント――その是非をめぐる考察(三谷竜彦)
 1.ペットの美容整形
  1.1 解説
  1.2 考察
 2.競走馬のドーピング
  2.1 解説
  2.2 考察
 3.ペットのモラルエンハンスメント
  3.1 解説
  3.2 考察 
 4.動物に対するエンハンスメントのゆくえ
第8章 欲望の中のヒューマノイド(粟屋 剛)
 1.なぜヒューマノイド開発か
  1.1 特定の目的があって開発するのか
  1.2 ヒューマノイドは人間と共通の道具が使え、かつ人間の環境にフィットする、ということは開発の理由・根拠になるか
  1.3 人間を知るためにヒューマノイド開発を行うのか
  1.4 動機は研究者の好奇心等ではないのか
 2.ヒューマノイドにニーズはあるか
  2.1 民生用ヒューマノイド
  2.2 災害現場用ヒューマノイド
  2.3 軍事用ヒューマノイド
 3.ヒューマノイドは何を意味するか
  3.1 ヒューマノイドはあくまで人間のための「道具」か、それを超える存在か
  3.2 ヒューマノイド開発に見る人間のエゴと傲慢
 4.ヒューマノイドは脅威か
  4.1 テクノロジーの脅威とヒューマノイドの脅威
  4.2 何が真の脅威か
 5.人間とヒューマノイドの近未来シナリオ
 6.ヒューマノイドの誘惑
第9章 リスクをめぐる対立構図――「リスク論言説」とその批判的検討(霜田 求)
 1.リスク論言説とは
  1.1 リスク論の枠組み
  1.2 リスク論言説の哲学的前提
 2.リスク論言説の主要な論法
  2.1 「グレーはシロ」論法
  2.2 リスクの「相対化による矮小化」論法
  2.3 リスク/ベネフィット分析
  2.4 リスク/コスト分析
  2.5 「ゼロリスク」、「ストレス」、「不安」
  2.6 「風評被害」
 3.リスク論言説の解読
  3.1 リスク論言説は「科学的」か:因果関係と不確定性
  3.2 リスク論言説は「中立公正」か:リスクとベネフィット・コストの算定
  3.3 リスク論言説は「客観的」か:リスク認知とリスク・コミュニケーション
 4.構造的無責任からの脱却に向けて 
第10章 「全能性」倫理基準の定義をめぐって(大林雅之)
 1.「全能性」とは何か
  1.1 「全能性」概念の歴史
  1.2 再生医療技術における「全能性」の生物学的意味
 2.欧米における「全能性」を倫理基準とする議論
 3.日本における「全能性」への問題意識の希薄性
  3.1 再生医療法および実験指針等における言及 
 4.「全能性」の生物学的意味とは何か
第11章 研究等倫理審査委員会の位置と使命(倉持 武)
 1.医学研究の義務・目的・必要性
 2.人を対象とする研究の必要性と人権の保護
 3.人を対象とする研究の分類
  3.1 医学研究の一般的分類
  3.2 医学研究の旧倫理指針に従った分類
  3.3 規制(倫理審査および成果公表機会)の観点から見た医学研究(medical reseach)の分類
 4.世界の研究倫理指針
 5.日本の医事関係法・政令・省令・告示・通達・通知・決定
  5.1 医療の基本に関する法律
  5.2 個人情報の取り扱いに関する法
  5.3 「動物の愛護及び管理に関する法律」(1973年10月1日、最終改正2014年5月30日)
  5.4 日本の研究倫理に関する政令・省令・告示・通達・通知(省令は名称のみ)
 6.医学系大学倫理委員会連絡会議
 7.各研究施設における研究倫理に関する諸規定
 8.研究倫理指針の改訂
 9.「研究活動における不正行為への対応等に関するガイドライン」 
終章 三つの基本課題に対する理論モデルの提唱(森下直貴)
 1.新たな共同関係の創出:〈老成社会〉モデル
 2.リスクをめぐる正義の対立の調整:〈両側並行〉モデル
 3.人間・動物・ロボットおよび胚・成体の分割線:四原理モデル
  3.1 実践的観点と理論的観点
  3.2 新たな理論的観点:システム構造のオーダー
  3.3 比較:尊重の原理と配慮の原理
  3.4 価値システムと非システムの価値:背後の原理
  3.5 胚と成体:準位の原理

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