内容紹介
人を対象とする研究・実験への取組みには、工学研究においても、科学的合理性に基づいた研究の設計と、被験者保護のための倫理的妥当性が要求される。本書は、エンジニアが科学的な被験者実験を計画するのを助け、倫理審査で問題となる研究倫理の原理と規則とを理解する助けとなることを目的としてまとめた。本書では、障害者や高齢者の自立と参加のための支援機器を主要な題材としたが、被験者保護の原理面では人を対象とする工学研究全般に役立つように配慮している。2014年末に公表された「人を対象とする医学系研究に関する倫理指針」にも配慮した内容となっている。
目次
１章 工学研究と倫理
１．１ 「倫理」と工学
１．２ 生命倫理
１．３ 研究倫理
１．４ 研究公正
２章 研究倫理はどのように形成されたか
２．１ ニュルンベルク綱領
２．２ ヘルシンキ宣言
２．３ 研究倫理に関するスキャンダル
ユダヤ人慢性疾患病院事件／ムルグラム研究／タスキギー梅毒実験／ウィローブルック肝炎研究／Beecher論文
２．４ ＮＩＨの倫理審査
２．５ 国家研究法：1974とベルモント・レポート
ベルモント・レポートにおける診療と研究の境界／研究倫理の３原則／生命倫理の４原理と研究倫理の３原則
２．６ 臨床研究のための倫理指針
日本の倫理指針／米国の倫理指針／そのほかの国の倫理指針
コラム：公民権運動／ノーマライゼーション
第３章 科学的な研究デザインを策定する
３．１ 人を対象とする研究の計画
工学系研究者にとっての困難／研究計画の科学性
３．２ 人を実験対象とすること
人の計測の特性／生物医学特有の方法論／計測に付随する不確実性
３．３ 支援機器への取り組み
機器開発の段階と実証実験の「相」／支援機器に関する観察研究／利用現場での開発／実験課題の設定
３．４ 研究デザイン
リサーチ・クエスチョン／研究デザインのタイプ／仮説とエンドポイント／ベネフィットとリスク
コラム：要因とexposure／精度／resultとoutcome／ＩＣＦ／minimal risk
仮想実験課題：課題の概要／リサーチ・クエスチョン，ＰＩＣＯ，研究デザイン／選択基準と除外基準／仮説とエンドポイント／リスクとベネフィット
４章 研究計画の科学性を確保する
４．１ データのタイプと特性
データの種類／ユーザビリティ／客観量／主観量
４．２ データの質に影響する因子
選択バイアス／情報バイアス／交絡バイアス
４．３ 推測統計学
研究デザインと統計量／正規性の検定／統計的帰無仮説の検定手順／統計的検定――対応のない標本の場合／統計的検定――対応のある標本の場合
４．４ サンプルサイズ
コラム：ＩＳＯ／ＩＥＣ Guide／quick and dirty scale／ＶＡＳとLIkert scale／標準正規分布表の定義／サンプルサイズの怪？
仮想実験課題：ユーザビリティと代替エンドポイント／実験条件の検討
５章 研究計画の倫理性を確保する
５．１ 研究計画の一般的倫理性
研究倫理のアプローチ／一般的規則
５．２ 被験者の募集
募集プロセス／被験者謝金
５．３ インフォームド・コンセント
インフォームド・コンセントのプロセス／説明文書／同意書／特別な場合のインフォームド・コンセント
５．４ 同意能力
法的無能力から同意能力へ／同意能力の判定基準／同意能力の欠けた被験者／代諾
５．５ 個人情報とプライバシーの保護
個人情報の保護／プライバシー
５．６ 社会的弱者
社会的弱者とは／必要な配慮／高齢者施設における被験者保護
５．７ 特定の個人に即した開発における倫理条件
生命倫理からの要求／成果の公表／商品化
コラム：親権者等が拒否できる機会の保証／アセント／ＨＩＶとself-experimentation／開発者による支援機器の使用／原理主義／オプト・アウト／暫定基準案の運用／データ保管の期間，学術会議，米国／プライバシー，女性の生理
６章 倫理審査の基礎知識
６．１ 倫理審査の意義
倫理指針／被験者保護の担保／研究者の保護
６．２ 倫理審査申請の種類
６．３ 倫理審査の手順と審査基準
倫理審査の対象／倫理審査のプロセス／審議の判定
６．４ データベース登録
コラム：審査不要の審査の例
付録 倫理審査申請書式・記入例
