内容紹介
ノーベル経済学賞のポール・クルーグマンによる定評のある国際経済学入門テキストの最新版(原著第8版)。上巻で「貿易」を、下巻で「国際金融」(2011年春刊行予定)をあつかい、2つの領域の関係を必要に応じて明らかにしている。また、本書を特徴づけるアプローチとして、理論に焦点を絞った章と、その理論を過去と現在の主な政策問題の検討に応用した章が続く構成になっている。国際経済学のきわめて重要な最近の動向を取り上げながら、従来の国際経済学のテーマの中心となる理論や、歴史を踏まえた不朽の知識を学ぶことができる。 第8版では、内容を最新のものにアップデートするとともに、いくつかの章を大幅に見直し、読者からの意見や国際経済学の理論と実践面における重要な進展を反映。
目次
序文
第1章 序章
国際経済学は何を研究するのか?
貿易の利益
貿易パターン
どこまで貿易を許容するか?
国際収支
為替レートの決定要因
国際政策協調
国際資本市場
国際経済学:貿易と金融
第I部 国際貿易理論
第2章 世界貿易:概観
誰が誰と貿易するのか?
規模は重要:重力モデル
重力モデルの論理
重力モデルの活用:異常値を探す
貿易の阻害要因:距離,障壁,および国境
貿易パターンの変化
世界は小さくなったか?
貿易で何を取引するのか?
サービスのアウトソーシング
古いルールはまだ適用するか?
要約
第3章 労働生産性と比較優位:リカード・モデル
比較優位の概念
1要素経済
生産可能性領域
相対価格と供給
1要素経済における貿易
貿易後の相対価格の決定
[コラム]現実世界の比較優位:ベーブ・ルースの場合
貿易の利益
数値例
相対賃金
[コラム]貿易をしないことによる損失
比較優位に関する誤解
生産性と競争力
貧民労働論
搾取
[コラム]賃金は生産性を反映するか?
多数財ケースにおける比較優位
モデルの設定
相対賃金と特化
多数財モデルにおける相対賃金の決定
輸送費と非貿易財を追加する
リカード・モデルの実証研究
要約
第4章 資源,比較優位と所得分配
2要素経済モデル
価格と生産
投入要素の組み合わせの選択
要素価格と財価格
資源と生産量
2要素経済における国際貿易の効果
相対価格と貿易パターン
貿易と所得分配
要素価格の均等化
貿易と短期的な所得分配
[ケーススタディー]南北貿易と所得の不平等
貿易の政治経済学:予備的な見解
貿易の利益の再検討
最適貿易政策
所得分配と貿易の政治学
ヘクシャー=オリーン・モデルの実証研究
ヘクシャー=オリーン・モデルの検証
[コラム]所得分配と貿易理論の始まり
これらの検証の意味
要約
補遺:要素価格,財価格,および投入要素の選択
生産技術の選択
財価格と要素価格
第5章 貿易の標準モデル
貿易を行う経済の標準モデル
生産可能性と相対供給
相対価格と需要
交易条件の変化による厚生効果
相対価格の決定
経済成長:RS曲線のシフト
成長と生産可能性フロンティア
相対供給と交易条件
成長の国際的な影響
[ケーススタディ]新興工業国の成長は,先進国に打撃を与えてきたか?
所得の国際移転とRD曲線のシフト
移転問題
所得の国際移転が交易条件に及ぼす影響
所得移転の交易条件効果に関する推測
[ケーススタディ]所得の移転問題とアジアの経済危機
関税と輸出補助金:RSおよびRD曲線の同時シフト
関税の相対需要効果および相対供給効果
輸出補助金の効果
交易条件効果の意味:誰が得をし,誰が損をするのか
要約
補遺 :オファー曲線で表される国際均衡
一国のオファー曲線の導き方
国際均衡
第6章 規模の経済,不完全競争,および国際貿易
規模の経済と国際貿易:概観
規模の経済と市場構造
不完全競争の理論
独占の簡単な説明
独占的競争
独占的競争モデルの限界
独占的競争と貿易
市場規模の拡大効果
数値例で示す統合された市場による利益
規模の経済と比較優位
産業内貿易の意味
産業内貿易の重要性
[ケーススタディ]産業内貿易の実例:1964年締結の北米自動車協定
ダンピング
ダンピングの経済学
[ケーススタディ]保護貿易主義のアンチダンピング
双方向ダンピング
外部経済にかかわる理論
専門サプライヤー
労働市場の共同維持
知識のスピルオーバー
外部経済と収穫逓増
外部経済と国際貿易
外部経済と貿易パターン
外部経済に基づく貿易と経済厚生
動学的収穫逓増
地域間貿易と経済地理学
[コラム]金ぴかの町(ハリウッド)の経済学
要約
補遺:限界収入の決定
第7章 生産要素の国際移動
労働の国際移動
要素移動のない1財モデル
労働の国際移動
分析を拡張する
[ケーススタディ]大量移民時代における賃金の均等化
[ケーススタディ]移民とアメリカ経済
国際的な資本移動
異時点間の生産可能性領域と貿易
実質利子率
異時点間の比較優位
[コラム]発展途上国への資本移動によって高賃金国の労働者は損失を被るか?
直接対外投資と多国籍企業
多国籍企業の理論
多国籍企業の現実
[ケーススタディ]海外からアメリカへの直接投資
[コラム]口車に乗せられて
要約
補遺1:限界生産物曲線から総産出量を求める方法
補遺2:異時点間貿易の補足説明
第II部 国際貿易政策
第8章 貿易政策の手段
関税の基本分析
1つの産業における供給,需要,そして貿易
関税の効果
保護の大きさを数値で表す
関税の費用と便益
消費者余剰と生産者余剰
費用と便益の測定
その他の貿易政策
輸出補助金の理論
輸入割当の理論
[ケーススタディ]ヨーロッパの共通農業政策
[ケーススタディ]輸入割当の実例:アメリカの砂糖のケース
輸出自主規制
[ケーススタディ]VERの実例:日本の自動車
ローカルコンテント規制
[コラム]アメリカのバスはハンガリー製
その他の貿易政策
貿易政策の効果:要約
要約
補遺1:関税の一般均衡分析
小国の関税
大国の関税
補遺2:独占状態での関税と輸入割当
自由貿易が行われるモデル
関税を取り入れたモデル
輸入割当を取り入れたモデル
関税と輸入割当の比較
第9章 貿易政策の政治経済
自由貿易の擁護論
自由貿易と効率性
自由貿易の追加的利益
レント・シーキング
自由貿易擁護のための政治議論
[ケーススタディ]「1992」の利益
国家の厚生から見た自由貿易反対論
交易条件から見た関税擁護論
自由貿易に否定的な国内市場の失敗論
市場の失敗論の説得力
所得分配と貿易政策
選挙による競争
[コラム]政治家売ります:1990年代の事例による根拠
集団行動
政治的なプロセスのモデル化
誰が保護されるのか
国際交渉と貿易政策
交渉の利点
国際貿易協定の歴史:概観
ウルグアイ・ラウンド
貿易の自由化
GATTからWTOへ
[コラム]紛争の解決と火種の発生
便益と費用
[ケーススタディ]試されたWTOの根性
ドーハの失望
[コラム]農業補助金は第三世界に損失を与えているのか?
特恵貿易協定
[コラム]自由貿易圏 対 関税同盟
[コラム]特恵の魅力とは?
[ケーススタディ]南アメリカにおける貿易転換
要約
補遺:最適関税は有益であるという証明
需要と供給
関税と価格
関税と国内の厚生
第10章 発展途上国の貿易政策
輸入代替工業化
幼稚産業論
保護による製造業の育成策
[ケーススタディ]輸入代替工業化を放棄するメキシコ
製造業優遇の結果:輸入代替工業化の問題
1985年以降の貿易自由化
輸出志向の工業化・東アジアの奇跡
アジア経済成長の真相
HPAE諸国の貿易政策
[コラム]インドの急成長
HPAE諸国の産業政策
その他の成長要因
要約
第11章 貿易政策を巡る議論
積極的な貿易介入政策に関する発展的な議論
技術と外部性
不完全競争と戦略的貿易政策
[ケーススタディ]チップが舞うとき
グローバリゼーションと低賃金労働者
反グローバリズム運動
貿易と賃金についての再検討
労働基準と貿易交渉
環境保護と文化的問題
WTOと国の独立
[ケーススタディ]裸足,溶銑、そしてグローバリゼーション
グローバリゼーションと環境問題
グローバリゼーション,成長,汚染
「汚染天国」問題
環境問題と貿易交渉
要約
付録 数学に関する補足説明
第4章の数学に関する補足説明:要素比率モデル
第5章の数学に関する補足説明:貿易を行う世界経済
第6章の数学に関する補足説明:独占的競争モデル