内容紹介
海洋の環境汚染物質の拡散問題は、海に囲まれ魚介類を主な蛋白源とするわが国にとってとても重要なものである。特に福島第一原子力発電所における原発事故から約１年、海洋における放射能汚染と生態系への影響に対する市民の関心は高まっており、文科省や環境省をはじめ,多くの機関が福島沖を中心にかなり広域で放射性物質の測定調査が進んでいる。こうした調査と並行して流体力学をベースにした放射性物質の海洋拡散モデルによる長期影響のシミュレーションも重要である。本書は長年ＩＡＥＡなどの国際機関で放射性物質の海洋環境影響評価に取り組んできた著者が、有用なモデルの数理的な解説、これらのモデルを適用した具体例を紹介。さらに福島の事例に対しても、観測データに基づく濃度分布シミュレーションを解説している。テーマはかなりニッチだがこれからますます重要性が増すテーマであり、十分な知識と経験がある筆者だからこそ書ける貴重な一冊。
目次
序章 地球環境と放射性物質の海洋拡散
１．地球環境問題の意味するもの
２．今後のエネルギーのあり方
３．原子力の役割
４．自然エネルギーの開発
５．原子力発電所の安全対策
６．放射性物質の海洋環境への移行
７．本書の内容
１章 海水流動のモデル化
１．１ 流動解析モデルの概要
１．２ 力学モデルの概要
１．２．１ 力学モデルの形式
１．２．２ データ同化手法の適用について
１．３ ボックスモデルによる流動解析
１．４ データ同化手法を用いた太平洋の流動解析
２章 核種拡散モデル
２．１ 本章の概要
２．２ 核種拡散の基本的な考え方
２．３ スキャベンジングを考慮した核種拡散モデル
２．３．１ スキャベンジングの概念
２．３．２ スキャベンジングモデル
２．４ セディメントモデル
２．５ 放射性物質の拡散計算モデル
２．６ 海底層モデル
２．７ 懸濁物質に関するパラメータ
２．８ セディメントモデルに用いるパラメータ
２．９ 海底付近のパラメータ
２．10 海底境界層区分の妥当性
３章 モデルの適用例
３．１ 旧ソ連原子力潜水艦投棄による北極海の放射能拡散
３．１．１ 調査の経緯
３．１．２ 北極海局所域（カラ海，バレンツ海）の流れや特性
３．１．３ 北極海全域の流れの特性
３．１．４ 北極海全域の放射性物質の鉛直分布
３．１．５ 北極海全域の放射性廃棄物の濃度解析
３．１．６ 北極海における線量計算
３．２ 大気圏内核実験等による太平洋の核種濃度計算
３．２．１ 概要
３．２．２ 大気・海洋中の放射性核種
３．２．３ フォールアウト量の算出
３．２．４ 海洋中核種濃度解析モデル
３．２．５ 濃度解析結果
３．２．６ 今後の展開
３．３ 六ヶ所村再処理施設の放射性廃液拡散予測
３．３．１ 太平洋沿岸の流動特性
３．３．２ 放射性物質の沿岸放出
３．３．３ 海洋拡散モデルの内容
３．３．４ 廃液濃度分布評価法
３．３．５ 六ヶ所村処理施設からの廃液拡散解析
３．４ 若狭湾における放射能拡散
３．４．１ はじめに
３．４．２ 若狭湾の流況
３．４．３ 放射性物質濃度の拡散計算
３．４．４ 放射性物質拡散モデルのパラメータの検討
３．４．５ 放射性物質の拡散計算
４章 福島原発から漏洩した放射能の海水／海底濃度計算
４．１ はじめに
４．２ 福島浜通り海域の長周期流れの特性
４．３ 海水中のCs-137の汚染レベル
４．４ 使用データ
４．４．１ 水温，塩分データ
４．４．２ 漏洩量推定に用いたデータ
４．５ 流動計算
４．５．１ 流動の解析方法
４．５．２ 計算条件
４．５．３ 流動計算結果
４．６ 放射性物質拡散の計算
４．６．１ 放射性物質拡散の解析方法
４．６．２ 放射性物質拡散の計算条件
４．６．３ 拡散計算結果
４．６．４ モデルの再現性
４．６．５ 被ばく線量の試算
４．６．６ 考察
