内容紹介
ル・コルビュジエ(本名:シャルル・エドゥアール・ジャンヌレ1887-1965)は故郷スイスのラ・ショー・ド・フォンで建築家を志し各地を転々とした後、1917年にパリに活動の拠点を定める。 パリにおいてはまず、画家のオザンファンとの出会いから、彼の影響のもと本名のジャンヌレで画家、美術批評家として活動を開始し、徐々にその名は知られていくようになる。その後1925年頃にオザンファンとは距離を置くようになり、これが一大転機となり、ル・コルビュジエのペンネームを得て、絵画、批評以上に、建築設計の活動に精力を傾けるようになり、世界的建築家として羽ばたいていくこととなる。 本書は、当初の絵画や美術評論をメインとした活動を経由しながら、いかに建築家ないしは総合芸術家「ル・コルビュジエ」として独立し、以降の活動を方向付けていったかを検証し、ル・コルビュジエが世に出る経緯をたどっている。
目次
序論 近代建築家から総合芸術家へ
序章 総合芸術家ル・コルビュジエへの始まり
1 オザンファンとの出会い以前
2 『キュビスム以後』-規則の始まり
(1)『キュビスム以後』の執筆
(2)オザンファンの言説――「キュビスム」から「ピュリスム」へ
(3)ジャンヌレによる第2章の独立性
(4)ジャンヌレの言説――芸術の範例(モデル)としての<機械>
(5)ジャンヌレの言説――範例(モデル)としての機械‐建築‐芸術
(6)ジャンヌレの言説――<規則>から<遊動>へ
(7)行動規範としての『キュビスム以後』
3 絵画作品「暖炉」――初めての絵画(タブロー)
(1)初めての展覧会
(2)「暖炉」――<箱>の創案
4 ドミノ住宅の構想
5 3つの始まり
第1章 美術評論家ジャンヌレ
1 『レスプリ・ヌーヴォー』の刊行
2 『レスプリ・ヌーヴォー』休刊以前の美術評論
(1)「造形芸術について」
(2)「ピュリスム」
(3)「ピュリスム」時点での絵画対象
3 『レスプリ・ヌーヴォー』休刊後の美術評論
(1)『近代絵画』――オザンファン主導の出版
(2)『近代絵画』――建築と<遊動>の欠如
(3)『今日の装飾芸術』における<遊動>
(4)『今日の装飾芸術』における時間
4 ピュリスムにおける幾何学と建築
第2章 建築評論家ル・コルビュジエの誕生
1 『レスプリ・ヌーヴォー』休刊前の建築評論
(1)ル・コルビュジエ‐ソニエの誕生
(2)『建築へ』につながる建築評論
(3)第1グループ――建築の幾何学的定義
(4)第2グループ――建築と工学
(5)第3グループ――建築における詩的感動
(6)『レスプリ・ヌーヴォー』から『建築へ』へ――『建築へ』初版の刊行
2 『レスプリ・ヌーヴォー』休刊後の建築評論
(1)『建築へ』第2版の刊行時期
(2)『建築へ』第2版におけるテキストの変更
(3)『建築へ』第3版について
(4)『建築へ』の邦訳について
(5)『ユルバニスム』の刊行
(6)『ユルバニスム』における範例の転換の兆し――<機械>から<生命>へ
3 『レスプリ・ヌーヴォー』廃刊後の建築評論――未来への行動規範から<遊動>の記録へ
4 建築評論の<遊動>
第3章 ピュリスム画家ジャンヌレ
1 ピュリスム絵画の確立
2 ピュリスムへの違和感
(1)文化的対象の導入――<規則>の拡大
(2)輪郭線の自立――<規則>の変容
3 ピュリスム絵画の表出
(1)『レスプリ・ヌーヴォー』で紹介された作品群
(2)ピュリスム絵画の展覧会
4 <オブジェ・ティプ>
(1)普通名詞化された<オブジェ・ティプ>
(2)<オブジェ・ティプ>の時間
5 ピュリスムの確立とその変容
第4章 画家ル・コルビュジエの誕生
1 ジャンヌレからル・コルビュジエへ
(1)サイコロの頻出――独立のイコン
(2)輪郭線の<遊動>――「レスプリ・ヌーヴォー館の静物」の不思議
(3)署名の変化
(4)先行する署名―「L‐C25」の謎
2 <詩的反応を伴うオブジェ>の時代へ
(1)転化する絵画対象
(2)トラセ・レギュラトゥールの展開
3 <オブジェ・ティプ>の変容と掃き出される幾何学
4 画家ル・コルビュジエの展開――回帰する<箱>からピュリスムの反復へ
(1)「はじめての絵画(タブロー)」再考――「初めて」から「始まり」へ
(2)<箱>の回帰
第5章 建築家ル・コルビュジエ――<規則>から<遊動>へ
1 普遍の建築へ
(1)普通名詞としての建築
(2)普遍解としての建築――シトロアン住宅
2 普遍解から特殊解へ
(1)レマン湖畔の小住宅
(2)レスプリ・ヌーヴォー館
3 構成規則<トラセ・レギュラトゥール>の確立
(1)反復規則の体系化
(2)構成規則<トラセ・レギュラトゥール>の体系化
4 ピュリスム規則からの逸脱
(1)建築的ポリクロミー
(2)範例(モデル)としての<機械>からの逸脱―ムンダネウム
5 総合芸術家ル・コルビュジエの誕生
第6章 総合芸術家 ル・コルビュジエの建築
1 静から動へ
(1)<箱>のイメージと<ドミノ住宅>のイメージ再び
(2)可視化されるイメージ
(3)実現されるイメージ
(4)建築的ポリクロミーの両義性
(5)引き裂かれる「箱」――素材の回帰へ
2 空間から時間へ――起源への遡行
3 時間の芸術家ル・コルビュジエ
4 <規則>の回帰=<規則>なき<遊動>へ
(1)<規則>の回帰と更新――トラセ・レギュラトゥールからモデュロールへ
(2)<規則>の内化による<規則>からの解放