内容紹介
本書は平成26年に終了した総合科目「自然界における左と右」について、文科系の分野の話題を拡大し企画するものである。学問体系に沿った系統的な講義が行われる中、この科目ではそれぞれの分野で扱う事柄を「左と右」などの対称性の観点から考察を行っている。それぞれの事柄を「対称性」の観点からみることによって、その事柄に対してより深い理解が得られると共に、物事を考える際に複眼的に物事を見る楽しさを理解してもらうことを目的とする。内容としては、物理学、化学、生物学、地学、心理学、文化人類学、美学、スポーツ科学などの分野で、「左と右」といった対称性がどのような意味を持つのかを考察する。自然界では物理学における原理的な対称性、動物の体の対称性/非対称性、地球の南北の対称性などを、美学の分野からは右脳的(アート思考)人間の可能性、スポーツ科学の分野からはサッカーにみる人間行動の「左と右」などの話題を取り上げる。
目次
第1章 物理学の世界の対称性<中村純>
1 はじめに――物理学者として伝えたいこと
2 物理における左と右(1)
3 対称性(シンメトリー)
4 現代物理学と対称性
5 物理における左と右(2)
6 おわりに
第2章 化学における左と右――分子の左右が生物活性を左右する
1 はじめに――鏡の前で見る景色
2 分子レベルで見る左と右
3 キラルな状態
4 非天然のキラル分子サリドマイド
5 タンパク質の謎――ホモキラリティー
6 おわりに――鏡の向こうで飲むお酒
第3章 地球における対称性――南半球と北半球の対称性、非対称性
1 はじめに
2 地球の公転軌道
3 大気・海洋に関係した南北対称性
4 地球の形――球形それとも球形ではない?
5 地球の磁場は南北対称か?
6 走磁性バクテリアの活動は南北の半球で対称的か?
7 おわりに
第4章 動物の体の対称性と非対称性
1 はじめに――動物のかたちを見ると
2 動物の進化と体の対称性
3 左右相称動物の左右非対称性
4 おわりに
第5章 脳と心の非対称性
1 脳の非対称性――半球機能差
2 心の構造――意識と無意識
3 認知心理学から見た意識と無意識
4 おわりに
第6章 スポーツにおける左と右――サッカーの対称性と反対称性をめぐって
1 はじめに――スポーツを考える
2 スポーツ構造論
3 スポーツ現象学
4 サッカーの特殊性
5 サッカーの対称性と反対称性
6 終わりに――文化の「周縁」としてのスポーツ
第7章 右脳的人間、未来にひらく「美学」のかたち――アート思考とアイリッシュ・ケルトの感性文化
1 はじめに
2 「左脳的」人間と「右脳的」人間
3 「ビジネス思考(Biz-thinking)」と「アート思考(Art-thinking)」――ヴェーバー、プロテスタンティズム vs. カトリシズム
4 反=理性な「想像力」に根ざす「美学」の誕生――18世紀イギリス経験論哲学における趣味論の成立から
5 アイルランド的な感性のかたち、あるいは「崇高」の根――ケルト装飾デザインにおける「ノマド/リゾーム」型思考
6 「ケルトの子守歌」の夢、映画文法とのアナロジー――ラフカディオ・ハーンに読むメタモルフォーゼの美学
7 おわりに――22世紀まで見越したアート思考、「左うでの夢」をみる文化創造論
第8章 文化人類学と「右と左」
1 はじめに
2 ロベール・エルツの功績
3 ロドニー・ニーダム編集論文集と長島信弘によるニーダム批判
4 日本の民俗的コスモロジーにおける「右と左」
5 認知科学への展開――空間把握の枠組みの相対比
6 「両極性」と対立がキーワード