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學鐙2022年春号掲載 書評『ビッグデータが拓く医療AI』(三島 良直)

 


『ビッグデータが拓く医療AI』

国立情報学研究所医療ビッグデータ研究センター 編

佐藤 真一・村尾 晃平・二宮 洋一郎・田井中 麻都佳 著

新書・224頁 定価836円(税込) 丸善出版 発行

 

 


 

 近年の医療研究開発は、もはや医療・薬学に留まらず、幅広い分野を融合した研究開発に取り組むことが必要となってきている。私が理事長を務める国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)においても、推進方針の一つに「異分野融合」を掲げ、幅広い学問分野を取り入れた研究開発の支援を行っており、特に、本書のテーマであるAI技術の医療野への応用については、すでに実用化されている技術も含め、今後の医療を支える非常に重要なものと考えている。

 大学共同利用機関法人情報・システム研究機構国立情報学研究所(NII)は、同所の研究内容から身近な話題を扱う新書を出版している。シリーズ第24弾となる本書は、近年に飛躍的な発展を遂げているAIが医療分野にもたらす変革を分かりやすく纏めた好著である。
 
 本書を編纂したNIIの医療ビッグデータ研究センター(RCMB)は、AMEDが支援した事業が契機となって設立されており、研究開発の成果が上梓される喜びを噛みしめながら、書評としたい。
 
 国のAI戦略では、医療は常に重点領域に掲げられており、日本の場合、画像診断支援に優位性があることは従前から指摘されてきた。第1章では、日本における画像診断装置の保有率の高さ、画像診断機器を先駆的に進めてきた企業の存在、医療機関における検査データの保管等について述べられており、こうした状況が政策の背景にあるという理解を深め
られる。
 
 
現在では主要な政策になっているAI開発であるが、第2章に記されたAIの歴史と課題を読み進めることで、今日までに幾多の困難を克服してきたこと、また、今後も更なる技術発展が待たれていることを知ることができる。続く第3章のタイトルが「挑戦」と銘打たれているのは、どなたにも納得いただけるであろう。RCMBには、六つの医療系学会と10の研究機関が集い、医療現場の課題解決に役立つAIプロトタイプを次々に作り上げてきた。研究成果の報告会はAMEDホームページに公開しているので、是非ご覧いただきたい。
 
 こうしたRCMBの挑戦を支えたのは、各学会が収集したデータを匿名化処理したデータであったが、医療データそのものは個人情報の塊である。第4章では、医療データを「保護と利活用の両者をともに高める」という一貫した趣旨の下に、前提となるリテラシーと法制度が解説されている。現在、AMEDにおいても医療データの利活用を推進しており、保護しており、保護との両輪で進める必要性を改めて感じた次第である。
 
 
最終章には、永井先生と喜連川先生による「未来の医療に向けて」と題する対談が収録されており、データサイエンスやAIに関与する人材の不足が懸念されつつも、未来はデータ駆動社会であることが明言されている。そしてこの章ではデータ利活用の重要性を更に高所から、すなわち我が国における医療システムの改革という視点から指摘している。歴史的に日本では様々な分野においてデータを共有することにより新たなシステムを構築することが苦手であった背景がある。しかし医療に関わる研究成果は必要なルールに基づいて広く共有する医療システムを作り上げ、国民の利益として還元することが研究の自由を保証するということを研究者は認識すべきであると主張している。私自身RCMBの会議に参加するなかで、AI開発に携わる多くの若手研究者がこのような考え方を先導すべく活発な議論を展開していることを目の当たりにしてきたことを申し添えたい。医師と共同研究した経験が、将来のAI研究開発の担い手にとってもかけがえのない財産になったと確信しており、今後の活躍を大いに期待している。

 私たちの日常の身近な商品・サービスの中に急速に組み込まれ始めているAI技術は、今後、少子高齢化の日本の医療を支える重要な技術となっていく。本書をご一読いただければ、AIの技術開発の難しさと共に、その可能性が未知数であることも実感いただけるだろう。本書を手に、AIによって日本の医療にこれからどのようなイノベーションが巻き起こされるのか、近未来に思いを馳せながら、医療研究開発の進展にご期待いただきたい。

 

三島 良直(みしま・よしなお)

国立研究開発法人
日本医療研究開発機構理事長
 

 


 

 

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