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Web版を主とした『化学便覧 基礎編』改訂6版の制作(學鐙 2021年春号より)
※「學鐙 2021年春号」に掲載されております同記事の内容を、Web用に一部修正し公開しております。この機会にぜひご覧ください。
『化学便覧 基礎編 改訂6版』 (2021年)
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Web版を主とした『化学便覧 基礎編』改訂6版の制作 |
電子書籍元年と言われたのが、2010年。それから10年以上がたち、その市場は着実に広がっている。またアカデミアの世界では、Web上で論文やデータベースを閲覧するのが当たり前となっている。『化学便覧 基礎編』の最新版を、Web版を主として制作するのは必然の流れだった。
だが始めてみると、苦労の連続だった。通常このような改訂版の制作では、一つ前の版のデータをもとに新版を組み上げていく。しかしWeb版はデータの形式やレイアウトが書籍と全く異なるため、旧版を十分に利用することができない。結果、3000ページ以上の新しい便覧を一から組み上げていくような作業が必要となった。
また、書籍とWebでは表記の前提が大きく異なる。書籍では文字の形やレイアウトを自在に表現できるが、Webはディスプレイの大きさやフォントの設定など、相手の環境によって表示が左右されてしまう。またHTMLの仕様の制約により、特に表のレイアウトについて、表現の幅が限られる。そのため制作時には細かい部分での調整が続いた。
一方、Web化によって得られたものは想定以上であった。分量の制約から解放されたため、必要な内容は全て掲載した。一部の化合物には3Dモデルを用意し、構造の理解が容易になった。さらに、外部データベースへのリンクを積極的に設置し、必要な情報への素早いアクセスが可能となった。
だが最も特筆すべきなのは、個々のデータの出典が掲載された点であろう。『化学便覧』には数十万もの数値が記載されている。それら全てについて、その値を求めた研究が存在するのだが、これまでは紙面の制約から個々のデータの出典は大部分が割愛されていた。今回のWeb化により、それらが大々的に姿を現したのだ。一次文献は専門家にとって必須の情報である。これにより『化学便覧 基礎編』が、日本の化学研究をさらに推進する原動力になると期待している。
それぞれの文献には、一人あるいは複数名の研究者の名前が記載されている。これらの研究者はみな、様々な実験を行い、値の妥当性を吟味し、その成果を発表した人たちだ。一つの数値を求めるのに、何日も費やしていることも珍しくないだろう。掲載されている膨大な量の文献を見ると、苦労してその結果を得てきた多くの先人たちの姿が浮かんでくる。
「學鐙」読者の大部分は、『化学便覧』とは無縁だろう。だが、もしどこかで本書を見かける機会があれば、ぜひ内容を見ていただきたい。ずらりと並んだ数値から、現代社会の基盤をなす化学という学問の、礎を築いてきた研究者たちの努力が伝わってくるはずである。
(文責『化学便覧 基礎編 改訂6版』編集担当)
本記事は學鐙2021年春号(第118巻第1号)にも掲載されています。
■學鐙 2021年春号(第118巻第1号)目次
目次 ▼私のすすめる三冊・・・岡崎 武志(フリーライター・書評家) ▼書評〈I〉 しんぶん赤旗日曜版編集部 編 ▼連載 ▼書評〈II〉 ■表紙 |
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