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『化学便覧 基礎編』の歴史(學鐙 2021年春号より)
※「學鐙 2021年春号」に掲載されております同記事の内容を、Web用に一部修正し公開しております。この機会にぜひご覧ください。
『化学便覧 初版』 (1952年)
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『化学便覧基礎編』の歴史 |
『化学便覧 基礎編』は1952(昭和27)年に『化学便覧』として出版されたのを嚆矢とする。『化学便覧』は基礎化学と工業化学を一冊にまとめた便覧で、前者は元素と化合物に関する基礎的な数値を掲載したデータ集で、後者は化学工業の要点を解説した百科事典であった。本書はまったく新たに構想されたものではなく、『実用化学便覧』(工業化学会編、化学工業時報社発行、1930年)という前身があった。『実用化学便覧』はその「序」に藤井榮三郎(高峰譲吉の弟で化学工業時報社の重役)が刊行に関わる一切の費用を寄付したことにより出版されたと記されているが、1938(昭和13)年の改訂版を含めて2万5000部という実績があった。ちなみに、藤井榮三郎は1936年の化学機械協会(現・化学工学会)の設立に際しても私財を投じるなど多大の貢献をしている。
1948年に日本化学会と工業化学会が合併して新たに日本化学会が発足したことを契機に、『実用化学便覧』の内容を一新して『化学便覧』を刊行することになった。本書「序」に「欧米には数種の信用の高い数値表がある。然し…欧米書は現在普通の日本人には高価に当り、なかなか購い難い。吾々には、吾々の懐にふさわしく要領を得た数表が欲しい…即ち先ず、戦後わが国の化学関係読者層の平均の購買力を推定してA5判、1000頁の大きさを目標にするのが最も適当と判定せられ…」とあり、当時の編集委員会の議論が窺われて興味深い。ここで、「欧米には数種の信用の高い数値表がある」というのは、Landolt–Börnstein や International Critical Tables of Numerical Data, Physics,Chemistry and Technologyなどを指していると思われる。
初版以降1958年に増訂改版を出した後、『基礎編』と『応用編』に分かれ、『基礎編』の初版は1966年に、『応用編』の初版はその前年に出版された。『基礎編 改訂2版』は1975年に刊行され、『初版』と『改訂2版』を併せて6万5000部に達した。その後、『改訂3版』(1984)、『改訂4版』(1993)、『改訂5版』(2004)と改訂を重ね、今回は16年振りの改訂となった。
以上、無味乾燥な記述がつづいたので、最後に、長い間本便覧の編集に携わられ今は泉下の人となられた先生から教えていただいた『化学便覧小唄』(松尾和子&マヒナスターズ「お座敷小唄」の替え歌)をご紹介したい。
化学便覧の融点もベルンシュタインの融点も/温度に変わりがないじゃなし/溶けて流れりゃ皆同じ
(文責「學鐙」編集室)
本記事は學鐙2021年春号(第118巻第1号)にも掲載されています。
■學鐙 2021年春号(第118巻第1号)目次
目次 ▼私のすすめる三冊・・・岡崎 武志(フリーライター・書評家) ▼書評〈I〉 しんぶん赤旗日曜版編集部 編 ▼連載 ▼書評〈II〉 ■表紙 |
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