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【コラム】吸盤を持つ魚 『魚類学の百科事典』より

本書に掲載のコラムを一部公開!

本項目に収録しきれなかったトピックや、小ネタ、最新の研究動向など、『魚類学の百科事典』の魅力をほんの少しだけご紹介いたします。

  

『魚類学の百科事典』

一般社団法人日本魚類学会 編 本体価格20,000円 A5判 / 756ページ

※本書に掲載のコラムを一部公開しております。

 

 

吸盤を持つ魚(160頁)


 吸盤とは,陰圧効果を利用して他物に吸着する円盤状の器官である.水生動物の中には吸盤を他物に吸着させて体を固定させ,摂餌や,体勢の維持などに役立てるものが多い.魚類もまたその例外ではなく,さまざまな分類群に吸盤を持つものが知られている.細部の形態的特徴が種や属の有用な識別形質としてよく用いられるほか,生物模倣(バイオミメティクス)の観点から注目されているものもいる.

  

図1 吸盤状の腹鰭を持つ魚.

(左)ドロメChaenogobius gulosus(ハゼ科),

(右)ウバウオAspasma minima(ウバウオ科)

[筆者撮影

 

 多くの魚類では腹鰭は鰭条や鰭膜の基底付近のみで体と連続しているため,可動性に富むが,吸着力に乏しい.しかし,ハゼ類やクサウオ類,ダンゴウオ類,ウバウオ類では,腹鰭が変形した吸盤が見られる(図1).なかでもハゼ類の吸盤は,左右の腹鰭が互いに近接し,棘条間と最後の軟条間にそれぞれ癒合膜が発達するのみ,という最も単純な構造となっている.沿岸浅所の砂底に生息するハゼ類には大きく発達した吸盤状の腹鰭を持つものがよくいるが,隙間の多い砂上では吸着力が発揮できないため,吸盤というよりもむしろ安定盤としての役割を担っている.クサウオ類やダンゴウオ類,ウバウオ類の吸盤は,表面に特徴的な肉質突起が散在するか,整然と並ぶものが多い.前2 群の吸盤が単一の円盤状であるのに対して,ウバウオ類の吸盤は前後2~3 部に分かれている.コバンザメ類は頭部の背面に背鰭が変形した吸盤を持つ(→項目「条鰭類の鰭」).

 

 ヤツメウナギ類の成体は口自体が吸盤状になっており,寄生性の種はサケ類など他の魚類の体に吸着して体液を吸う.熱帯・亜熱帯の河川に生息する一部のコイ目魚類やロリカリア科のナマズ類には,下唇をはじめとする口周辺の器官が変形し,口と併せて吸盤と同様の機能を示すものがいる.吸盤状の口で他物に吸着しつつ,表面に付着する微小な藻類や水生昆虫の幼生などを口腔内の角質部でこそげとって食べる.よく似た構造は,岩礁性海岸の潮上帯に生息するイソギンポ科のヨダレカケ属にも見られる.

 

 南~東南アジアの河川急流域に生息するコイ目のタニノボリ類には,上から押しつぶしたように平たい頭と体,左右に大きく広がった胸鰭・腹鰭とが合わさって,1 つの吸盤のようになっているものが少なくない.

 [渋川浩一]

 

『魚類学の百科事典』(160頁より)

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