カテゴリ別お知らせ

【コラム】ウナギもマグロも祖先は深海魚 『魚類学の百科事典』より

本書に掲載のコラムを一部公開!

本項目に収録しきれなかったトピックや、小ネタ、最新の研究動向など、『魚類学の百科事典』の魅力をほんの少しだけご紹介いたします。

  

『魚類学の百科事典』

一般社団法人日本魚類学会 編 本体価格20,000円 A5判 / 756ページ

※本書に掲載のコラムを一部公開しております。

 

 

ウナギもマグロも祖先は深海魚(2章 80頁)


 系統学の面白さの1 つは,系統樹を使って過去に向かってタイムトラベルできることだ.本項の「ウナギもマグロも祖先は深海魚」というタイトルも,このタイムトラベルの結果得られたもので,いずれも筆者の研究が関わっている.

 

 「ウナギがどこから来たのか?」という問題に取り組んだ最初の一人は古代ギリシャの哲学者アリストテレスだ.彼は結局,ウナギは自然発生する(泥の中から生まれる)と結論せざるを得なかったが,ウナギが遠く離れた外洋に産卵場を持つとわかったのは,それから2,000 年以上も後のことだ.一方,なぜそんなに遠い所で産卵するのか,説得力のある説明を誰もできなかった.

 

 われわれの研究グループは,その謎に答えるためにウナギ目全体の系統関係を推定した(Inoue et al., 2010).その結果,ウナギ属(全19 種)が外洋の中・深層(海底から離れた200 m以深の深海)に生息するウナギの仲間(ノコバウナギやフクロウナギなど奇妙な形態を持つ一群)の内部から分岐し,祖先の生息場所が外洋の中・深層であることを明らかにした.

 

 この発見が何を意味するのか.中・深層に棲んでいたウナギの祖先(おそらく熱帯産)が生産力の高い熱帯の河川に成長の場を求め,産卵場所だけは外敵が少ない安全な外洋に残してきたのではないか.だとすれば,彼らの産卵大回遊は日本人でいうと「お里帰り」ということになる.この説明は日本人には妙に説得力を持ったようで,ウナギが産卵大回遊をする理由について多くの人が納得してくれた.

 

 さて,マグロの仲間(サバ科)の類縁関係についても,近年非常に興味深い結果が得られた(Miya et al., 2013).これまで類縁関係がないと思われていたスズキ類の6 亜目の魚たちが,実は一番近い祖先を共有する近縁なグループ(単系統群)だということがわかったのである.形態的にはとても近縁とは思えないこれらの魚たち(だから6 つもの亜目に分けられていた)だが,実は全てが外洋の浅海から深海に暮らす遊泳性捕食魚類であることもわかった.

 

 筆者の研究グループはこの新分類群に対してペラジアと名付け,共通祖先の生息場所とその分岐年代を推定した.その結果,生息場所は400 mほどの深海であること,そしてその分岐年代は恐竜が絶滅した白亜紀末であることもわかった.どうやら,白亜紀末に,外洋でも大型捕食性魚類の絶滅が起こり,その後に生き残ったペラジアの祖先が外洋で大放散を遂げたらしい.だとすれば,マグロの祖先も深海魚ということになる.

 

[宮 正樹]

 

『魚類学の百科事典』(2章 80頁より)

続きは本書をご覧ください。

 

本記事に関するお問い合わせは書籍営業部、

またはお問い合わせフォームよりお知らせください。

関連商品

▲ ページの先頭へ