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【コラム】新種はどこから見つかるのか 『魚類学の百科事典』より

本書に掲載のコラムを一部公開!

本項目に収録しきれなかったトピックや、小ネタ、最新の研究動向など、『魚類学の百科事典』の魅力をほんの少しだけご紹介いたします。

  

『魚類学の百科事典』

一般社団法人日本魚類学会 編 本体価格20,000円 A5判 / 756ページ

※本書に掲載のコラムを一部公開しております。

 

 

新種はどこから見つかるのか(1章 46頁)


 哺乳類や鳥類の新種が発見されることはめったにない.そのため新種が見つかると新聞やテレビなどで話題になる.その一方で,魚類の新種は毎年,数百種も発表される.このため話題になることは少ない.魚類の新種発見のペースはやや鈍りつつあるが,日本からも1年に10種程度の新種が見つかっている.では,魚類の新種はどこから見つかるのだろうか.

 

 過去に新種が多数報告されてきたのは海では熱帯域のサンゴ礁,淡水ではアマゾン川流域などであった.このような地域では魚類の種多様性がきわめて高い.一般的に言って,多くの種が生息している場所には未知の魚がいる可能性が高い. 1950年から2009年までの60年間に報告された海水魚の新種を国(地域)別に調べてみると,上位4位はオーストラリア(740種),日本(491種),中国(202種),台湾(146種)となっている.これらの国々にはサンゴ礁が存在し,多くの新種がサンゴ礁から報告されている.ただし,その多くは小型のハゼ類などで,中型・大型魚類の新種の発見は頭打ちとなっている.魚類の新種発見は依然として続いているが(図1),地球上に生息する魚類の種数は有限である.研究が進めば世界に生息する魚類の全種が明らかになる日が必ずやって来る.

 

図1 2015年に世界の新種トップ10に選ばれたア
マミホシゾラフグTorquigener albomaculosus.
奄美大島の水深25 ~ 30mの海底で発見

[撮影:大方洋二]

 最近,海で新種発見が続いているのはディープリーフと呼ばれる水深50mから150mの所と水深200mより深い深海である.淡水ではアマゾン川やメコン川など熱帯の大河の流域から依然として新種が報告されている.ディープリーフは通常のスキューバダイビングでは到達できない水深にあり,地形も複雑なため調査は難しい.このため混合ガスという特殊な気体を用いた高度な潜水技術に依拠することになる.このような制約があるため,限られた研究者しか新種の宝庫であるディープリーフの調査を行えない.一方,深海は世界の海洋の大半を占めているが,あまりにも広く深いため,新種を発見できる頻度は浅海に比べると低くなる.このため,深海に生息する未知の魚を探査するためには,多くの時間を要する.しかし,未知の魚の種数は減りつつある.今世紀中に地球上の全魚種が明らかになる可能性は高い.しかし,魚類分類学者が欧米では激減しているため,今後も新種の発表が従来のスピードで進むとは限らない.魚類の多様性解明のためには魚類分類学の後継者養成が急務となっている.

[松浦啓一]

 

『魚類学の百科事典』(1章 46頁より)

続きは本書をご覧ください。

 

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