カテゴリ別お知らせ

【丸善創業150周年】出版物で辿る丸善の歴史(最終回)~新たな取り組みの時代~

今年は丸善の創業から150年を迎えます。

この節目の年に丸善の出版物を全12回の連載で振り返ります。

それぞれの時代を象った、丸善グループの写真や画像をご覧ください。

 

丸善出版 創業150周年記念プロジェクトチーム

 

<< 『理科年表』の歴史とトリヴィア

 

 新たな取り組みの時代


 

出版業界は1996年に売上のピークを打ったが,書籍だけを見ると1997年がピークで1兆1,062億円であった。その後,書籍の売上はマイナス成長がつづいているもののここ数年は微減に留まっている。昨年の書籍の売上は6,991億円でピーク時の77%に落ち込んだが,雑誌も含めた業界全体の昨年の売上は1996年に比べて48%で,雑誌の低迷が著しい(『出版年鑑』による)。

こうした中で電子出版は伸長し,昨年は2014年に比べて2倍以上に伸びた。しかし,その多くはコミックで占められている(出版科学研究所による)。

この時期に多くの書店で理工書の棚が縮小され,更には理工系専門書の棚そのものをなくしてしまう書店もあって理工書の書店での売上が低迷する中で,次の施策に取り組んだ。

① 書店から図書館への販売ターゲットの移行

② 売上堅調の医書の拡大

③ これまで手掛けてこなかった人文社会系のレファレンスの企画・出版

④ 電子出版の拡大

⑤ 他社刊行物の取込み。

一方,在庫問題に対処するためPOD(print on demand)を導入した。POD出版のためのスキャン及び複写品質の向上という背景の下,ここ数年で一気に広がった。重版のロットには及ばないが少部数が必要な,教科書や専門書などには大変向いている。スキャン費用など原価回収に課題は残るが,最近ではスキャンではなく組版PDFデータの利用によりコスト・品質の改善がはかられている。

しかし,上記にあげた新たな取組みがすべてではなく,優れた企画は旧来の市場,やり方で売れることを『世界地図シリーズ』『極論で語るシリーズ』『キャンベル生物学』などの売行き良好書が,指し示している。出版は企画が命であるという分かり切ったことを,改めて教えてくれる。

  

生命倫理百科事典

 生命倫理百科事典 翻訳刊行委員会 編,日本生命倫理学会 編集協力,

編集代表:粟屋 剛,2007年1月発行,

B5判,全5冊,函入り,3,300ページ,本体価格200,000円

 

生命倫理に関する最初のレファレンスとして米国図書館協会(ALA)ダートマス賞を受賞した “Encyclopedia of Bioethics” 3rd. Ed.(Stephen G. Post 編,2004)の完訳版。

米国の医療,生命科学,生命倫理,倫理,哲学,宗教,法学,経済学,人類学などの主要分野からの専門家約460人が執筆したものを,300人超の野心的な翻訳陣(翻訳刊行委員会)が翻訳した。

 本書はあらゆる意味で画期的,挑戦的な商品で,当時の「出版事業部」が総力を挙げて,企画から1年数カ月というきわめて短い期間で刊行した。挑戦的であった理由は以下の三つである,

第一に,『生命倫理』は「理工書の丸善」が長年手掛けてきた分野とは異なり,当時会員数1,000名強の小規模な学会が翻訳母体であった。

第二に,『生命倫理』は典型的な学際領域で,コアの読者層が分散しており,かつ1970年前後に米国で始まった新しい学問領域でもあり,当時はまだ日本には根付いていなかった。

第三に,図書館商品とはいえ20万円もの高額商品が受け入れられるのか? といった懸念が拭えず,編集代表の気迫に押されるかたちで企画は成立したものの,不安の方が大きかった。当時は,それまで優良商品であった「便覧」「ハンドブック」「辞典」の売上が改訂ごとに減少し,専門書,啓蒙書の売上は低迷し,売上を維持していたのは大学教科書のほかに見当たらないという状況であった。社会的にも紙の出版物は低迷期に突入していた。

そんな状況下,「生命倫理」はにわかにクローズアップされた。2006年に「宇和島臓器売買事件」が起こり「臓器移植をめぐる生命倫理」が問われたからである。予約注文は極めて好調,言い換えれば殺到し,納品を待ってもらう事態も発生した。刊行後わずか2カ月で重版となり,以降数年間にわたり大きな利益をもたらした。現在6刷。さらに本書の成功は,それに続く大型百科事典および「シリーズ生命倫理学」の刊行に道を拓き,大型企画の企画編集の道筋や開拓の基盤となった。

本書は大成功を収めたが,B5判2段組,3,000ページ,しかもほぼ文字だけの大部な事典の編集作業は困難を極めた。予約注文が予想をはるかに上回ったため,予告アナウンスの「2007年1月刊行予定」から「予定」が消えて刊行が至上命令となり,刊行できなければ多方面に迷惑をかけるという事態に陥った。最終的には多数の編集部員を動員し,営業部員までもサポートする総力戦となった。この間,長時間労働に加えて収束にむけてなかなか妥協してくれない編集委員との折衝などで苦労は絶えなかった。しかし最終的には目標達成のため印刷所も含めた連帯感の下に年末年始も編集作業を遂行し,刊行に漕ぎ着けた。販売面でも「オール丸善」の各営業部門が図書館での購入を滞りなく進めた。

「働き方改革関連法」の施行された今では許されないことであるが,作業を手伝った若手が「はじめて目標に向かって一丸となって作業ができて楽しかった」と言っていたのが印象的であった。

最後に,当時の生命倫理学会会長の藤井正雄先生の「刊行に寄せて」と編集代表の粟屋剛先生の「翻訳版刊行にあたって」から次の一文を引用しておく。

「私は「生命倫理」のノウハウをこの事典(原書)で学んだ。私はこの事典を座右において必要なページをめくっているうちに閃いたものがいつの間にか論文になったことを覚えている」(藤井先生)

「翻訳書は,原書を読んですらすらと理解できる人には必要のないものである。しかしながら,そのような人はそう多くはない。翻訳訳書が必要なゆえんである」(粟屋先生)

 

現在『新版 生命倫理百科事典 原書4版(Bioethcs 4th.ed)』の刊行が準備中であることを付記する。

  

ストレス百科事典

 ストレス百科事典翻訳刊行委員会 編,日本ストレス学会 編集協力

編集委員長:下光輝一,2009年12月発行,

B5判,全5巻,函入り,3,056ページ,本体価格200,000円

 

“Encyclopedia of Stress”, 2nd Ed.(George Fink 編集,2007)の完訳版。当時,従来はストレスとは無関係と思われていた疾病においてもストレスの与える影響がより明らかになってきていた。骨粗鬆症,腹部脂肪の増加などを含め,ストレスに関係するあらゆるトピックを,その派生的影響も合わせて収録しているだけでなく,テロ,暴動とストレスの関係,2000年以降に顕著になった研究,動物研究,不安障害,うつ病,薬物依存,災害,心理学的治療法にも言及している。翻訳には,主に日本ストレス学会の会員であり,分子生物学から社会医学までの多様な分野においてストレス科学研究に携わっているわが国のストレス科学の専門家が参加した。

 2007年1月に刊行した『生命倫理百科』が好評かつ大きな成果を上げたため,社内的には大型商品の編集,販売の道筋ができており,本書の刊行にも大きな期待が寄せられた。『生命倫理百科』の3年後に刊行した本書は、『生命倫理』には及ばないとはいえ,期待に応えて5カ月後には重版し,つづいて3刷に達した。

「翻訳版刊行にあたって」の以下の一文が本書に需要があったことを明示している。

「現代社会における様々な出来事,国家間の戦争,国内における内乱と騒乱,宗教対立,貧困と飢餓,経済不況,職場における過重労働や失業の問題,学校,地域,家庭などの日常生活に場においても,人々は様々なストレス要因に曝されている。またうつ病や過労死などストレス関連疾患に陥っている人も多い。ストレスやストレス関連疾患への対応が喫緊の課題となっているが,十分な科学的,系統的,包括的な対策が行われているとは言い難い。」

原書および本書刊行時から上記の指摘は解決されているとはいえず,昨今はますます混迷の度を深めているのではないだろうか? というのは新たに格差,いじめ,幼い子どもへの虐待,DV,ネット炎上,同調圧力,あおり運転などのストレス要因が顕著化しているからである。本書刊行から10年経って,日本は生きやすくなったのだろうか?

本書は『生命倫理百科事典』と同様編集作業は質・量ともに大変であったが,編集委員会の先生方が非常に協力的かつ献身的に作業を進めてくれたため,編集委員によって編集作業の精神的ストレスは軽減された。その意味で,編集委員長をはじめとして本書の編集委員は「ストレスの研究者」であるだけでなく実践家でもあった。

また,2011年に発生した3.11(東日本大震災)後いち早く,関連する項目(「地震によるストレス影響」,「心的外傷後ストレス障害(PTSD)」「死別反応」など)をWebサイトで無料公開し,被災者に寄り添う姿勢を示した。

 “Encyclopedia of Stress”が好評を博したため,原書出版社は収載された545項目を分野別に分け,新規項目を加えて再構成した3分冊を2010年に刊行した。その中で最も需要があると想定した「Stress Consequences:Mental, Neuropsychological and Socioeconomic 1st Edition 」を2012年に姉妹版『ストレス百科事典-精神医学的・臨床心理的・社会心理的・社会経済的影響』(B5判,928ページ,18,000円)として刊行した。本書も重版した。

 

 

科学・技術・倫理百科事典

 科学・技術・倫理百科事典翻訳編集委員会 監訳,

2012年1月発行,B5判,全5巻,2,788ページ,本体価格200,000円

 

 本書は“Encyclopedia of Science, Technology, and Ethics”(2005)の全訳で,『生命倫理百科事典』『ストレス百科事典』につづく大型百科事典の第3弾に当たる。本書も重版に漕ぎ着けた。

 原書「まえがき」の冒頭に編集者代表のC. Mitchamが「パイオニア的な『生命倫理百科事典』に論文を準備(寄稿)した際に,私は技術と倫理に関する問題についてのより一般的な事典のような入門書を出せないかと夢想するようになった」と記していて,『生命倫理百科事典』をパイオニアと称しているのが興味深い。

 本書は2012年1月の刊行で前年に起こった3.11の東京電力福島第一原子力発電所事故(F1事故)の影響が生々しいときであったため,「訳者まえがき」にはF1事故についての言及が多くを占めている。とくに「原子力行政・事業あるいはそれらを支えてきた資源エネルギー政策や科学技術全般を問題にしようとする際にも,倫理的側面からの検討は不可欠となろう」という箇所は,本書刊行の骨子といえるのではないだろうか? 

科学技術倫理におけるわが国の取組みとして,たとえば土木学会では,すでに1938 年に「土木技術者の信条および実施要綱」が制定されてその後改定が重ねられ,その他の多くの学協会でも倫理規定が設けられるようになった。また,JABEE(日本技術者教育認定機構)などによる高等教育における技術倫理教育も行われているが,理想的な言葉が額装されただけで現場には浸透しなかったことをF1事故が示してしまった。その意味で本書はこれからでも一人でも多くの人に読んでほしい本だと確信する。

 本書の「人工知能」と「脳死」を読むといずれも少しも古びていないことが分かる。「人工知能」では「多くの雇用が失われるだけでなく経営者さえ不要になる恐れがある」と言及されているし,「脳死」では「脳死が米国において早急に受容され,比較的無矛盾の状況にある一方で,その状況は他の国では異なり,最も引き合いに出されるのは日本である」という指摘があって今でもまったく状況が変わっていない。

 

統計科学百科事典

 日本統計学会 訳,B5判,全5巻,2,200ページ,

 2018年12月発行,本体価格250,000円

 

 本書は“International Encyclopedia of Statistical Science”(2011)の全訳。『生命倫理百科事典』から始まる7冊目の大型百科事典で発売と同時に重版になった。

 本書も他の大型百科事典同様,大学図書館,公立の中央図書館などに常備されることを狙った企画であるが,日本では統計学を標榜している学部や学科がほとんどないこと,一方統計に関する類書は山のようにあるので,発売前は部数を絞ったが,ふたを開けてみると初版はたちまち底をついた。現在では統計学やデータサイエンスと無縁の学問はなく,それぞれの分野に統計の専門家が分散して所属していること,また,日本統計学会会長・理事長が寄せた日本語版序文で「日本統計学会が本百科事典の翻訳に着手したのは,翻訳の作業を通じて統計の専門家が結束する機会をつくることも意図していた」と記されているように,本書には分散から結束へというベクトルが働いたことがわかる。複数の研究者の推薦は図書館が購入する大きな理由となるからである。

 同じく日本語版序文によると「各項目は執筆担当者の見解が強く反映された叙述を許容」とあって,客観・公平・統一という事典の編集ルールを踏み外している。これは既存の学問の事典では拒絶されるに違いないが,急激に変化・発展するデータサイエンスではスタンダードメニューは陳腐で逆に受け入れがたいことが窺われる。なお,原書の編者はセルビアの研究者で執筆者は150ヵ国に及ぶ。これも本書の特異性を裏付けている。

  

 人文・社会科学系事典シリーズ

 2007年の『応用心理学事典』(日本応用心理学会編,A5判,688ページ,本体価格20,000円)を嚆矢として同年『応用倫理学事典』(加藤尚武編集代表,A5判,1,010ページ,本体価格20,000円)を出してから,以下の人文・社会科学系の百科事典を毎年数点ずつ刊行して現在では50点近くになった。これまでは人文・社会科学系の出版は例外でしかなかったが,ここ10年でこの分野が大きく増えたため,当社はいまでは「理工・医学・人文社会科学の専門書出版社」を標榜している。

人文・社会科学系百科事典はすべて「読む事典」というコンセプトを貫いていて,採録項目は原則見開き2ページ(2,500字)の中項目事典という体裁をとっている。これはこれまでの辞典の主流であった言葉の意味や定義を知るという機能がネットに取って代わられてしまい,言葉の意味や定義を知るための小項目辞典には正確さと信頼性しか存在意義が見出せず需要が著しく縮小したという判断に基づいている。ただし,事典の「調べる」という機能を補足するため,各項目の末尾に「さらに詳しく知るための文献」を付記し,さらに巻末に論文の著者名索引と解説文中のキーワード索引を設けている。

 

・人文・社会科学系事典(刊行順)

 応用心理学事典応用倫理学事典社会心理学事典文化人類学事典社会学事典日本文化のかたち百科宗教学事典心理臨床学事典世界宗教百科事典人の移動事典発達心理学事典人文地理学事典社会調査事典民俗学事典社会福祉学事典世界民族百科事典衣服の百科事典世界の文字事典犯罪心理学事典児童学事典発達障害事典社会学理論応用事典華僑華人の事典教育社会学事典環境経済・政策学事典人口学事典国際開発学事典社会思想史事典展示学事典行動分析学事典認知行動療法事典デザイン科学事典リスク学事典農業経済学事典

・文化事典シリーズ(刊行順)

 スペイン文化事典イタリア文化事典フランス文化事典イギリス文化事典日本文化事典中国文化事典北欧文化事典世界の暦文化事典アメリカ文化事典インド文化事典ロシア文化事典東南アジア文化事典

 

 

世界地図シリーズ

 B5判,66~144ページ,カラー,2005~2019年発行,

本体価格1,900~2,900円,現在13冊

 

シリーズタイトル(刊行順):絶滅危機生物の世界地図/子どもと健康の世界地図/病気と健康の世界地図/人と経済の世界地図 /がんの世界地図/移住・移民の世界地図/格差の世界地図/スポーツの世界地図/食料の世界地図 第2版/水の世界地図 第2版/温暖化の世界地図 第2版/海の世界地図/人権の世界地図

*本書は世界銀行編,版元はHarperCollinsで他と異なるが,『世界地図シリーズ』の1冊として販売している。

このシリーズは英国の出版社Myriad Editionsの“The Atlas of ○○”シリーズの全訳。上記タイトルは『スポーツ』を除いて解決が容易でない問題,あるいは問題解決の出口が見えない難問をテーマとしている。様々な難問を世界地図上に置いてみると問題の所在がよく分かる。

直面する課題を地図で示すというコロンブスの卵的な発想で本シリーズはほとんどのタイトルが重版し,硬派の本が売れない時代に目の覚めるような売行きを示した。出版不況の中,売上至上主義に陥りともすれば置き去りになってしまう良書をつくるという姿勢や,優れた内容の本を一人でも多くの読者に届けるという出版の基本を思い起こさせる企画といえる。

原書には上記のほかに『タバコ/心疾患/人間の安全保障/緑/鳥/カリフォルニア/中国/アメリカ帝国/戦争と平和/女性』などがあり続刊が待たれる。また,「温暖化」などは流動的なテーマなので原書の改訂を期待したい。

 

 

「極論で語る」シリーズ

 A5判,150~280ページ,

2011~2018年発行(継続巻も随時リリース予定),

本体価格3,200~3,900円,現在8冊

 

 シリーズタイトル(刊行順):極論で語る循環器内科/極論で語る神経内科/極論で語る腎臓内科/極論で語る循環器内科 第2版/極論で語る感染症内科/極論で語る総合診療/極論で語る睡眠医学/極論で語る消化器内科

 

 本シリーズは2011年に刊行した『極論で語る循環器内科』(初版)を嚆矢とし,その後現在まで7冊出版している。シリーズ全タイトルに慶應義塾大学循環器内科の香坂俊先生が関与し,香坂先生の臨床に対する姿勢を顕現させた企画といえる。

 本書冒頭に『大辞林』の「極論」の定義,すなわち「(1)極端な議論,(2)つきつめたところまで論ずること」を掲げて,まずシリーズ名の所以が明かされる。さらに『極論で語る腎臓内科』の「まえがき」の「これまで腎臓内科の教本といえば細かい生理学や病理学の話が中心で,退屈(さらに役に立たない)なものが多かった」という一文が象徴するように,徹頭徹尾ベッドサイドで勝負する初学者のための本という主旨が貫かれている。この主旨が貫かれていることが,シリーズの全タイトルがきわめてよく売れている主因となっている。

 多人数執筆で粗密があり一部重複していてレベルがばらばら,その上ページ数が当初の想定から大幅に超過という安易な本づくりに陥ってしまいがちな昨今,コンセプトを妥協せずに貫いた本シリーズが受け入れられたのは当たり前(後付だが)ともいえる。

出版の基本をおろそかにしてはいけないことを本シリーズが教えてくれる。

 

 

シュプリンガー・ジャパン発行書籍の譲渡

 

 2012年にシュプリンガー・ジャパンが出版していた数学・物理・医学・ライフサイエンスなどの和書約380点が小社に譲渡された。当時譲渡されたタイトルを分野ごとに多い順に並べると,数学190点,医学60点,物理55点,ライフスサイエンス55点,その他20点であった。当社には数学の点数が少なかったのでこの分野が大きく拡大した。数学は『現代数学シリーズ』『数学クラシックス』『数学クラブ』『数学リーディングス』というシリーズを中心に出版している。

 売行きが最も好評なのは,理工分野では『パターン認識と機械学習 上・下』(B5変,372ページ/452ページ,6,500円/7,800円,2007年 /2008年)がAI時代を背景に堅調に部数を伸ばしている。医学分野では『ステップス・トゥ・フォロー 改訂第2版』(B5判,440ページ,2005年,本体4,800円)と『ライト・イン・ザ・ミドル』(B5判,275ページ,1991年,本体4,660円)で,両書はいずれも片麻痺患者のためのリハビリテーションの教本である。

 

トートラ 人体解剖生理学 原書10版

 佐伯由香・細谷安彦・髙橋研一・桑木共之 編訳,

B5判,688ページ,2017年発行,本体価格6,900円

 

 本書は“Introduction to the Human Body-The Essential of Anatomy and Physiology” 10th Ed.(2015)の翻訳。“Introduction to the Human Body”は“Principles of Anatomy and Physiology” 14th Ed.(2014)のコンサイス版。“Principles of Anatomy and Physiology”は原書15版を2019年に『トートラ 人体の構造と機能 原書15版』として翻訳出版した。

 本書は看護,理学・作業療法,薬学などの医療関係の学生のための教科書で,その特徴として第一にわかりやすいカラーのエレガントな解剖図をあげることができる。第二にその解剖図が全体の中のどの部分のものか,どの方向から見た図なのか分かるように描かれていること,第三に各器官がホメオスタシス(恒常性)の維持にどのように関わっているか他の器官との連携が解説されていることで,この3点が医師以外の医療専門職を養成するための機関のテキストとして受け入れられた。

 2002年発行の本書初版は刊行当初から好評で3刷となり,つづいて『原書6版』(2004年)は5刷,『原書7版』(2007年)も5刷と,2~3年おきに原書の改訂と合わせて翻訳版を出し現在に至っている。

 また,本書を核に上記の『トートラ 人体の構造と機能』『ボディセラピーのための トートラ 標準解剖生理学』『トートラ 解剖学』を出版しており,とくに『トートラ 人体の構造と機能』は各版が重版を重ね現在は『原書15版』を刊行中。 

   

キャンベル生物学 原書11版

 池内昌彦・伊藤元己・箸本春樹・道上達男 監訳,

B5判,1,704ページ,2018年発行,本体価格15,000円

 

 本書は“Campbell Biology, 11th ed.”(2016)の全訳。2007年に原書7版を翻訳した『キャンベル生物学』が本書の前身で『キャンベル生物学(原書7版)』は5刷になった。つづいて2013年の原書9版の翻訳は4刷になったが2007年の版より販売部数は1.4倍も増えた。これは初回の刷部数を倍増させたためで,2007年の刊行当初は15,000円もする大部な生物学の教科書に対して販売に自信がもてなかった。しかし,原書は化学でいえば『アトキンス物理化学』や『マクマリー有機化学』,やや大げさにたとえれば『ハリソン内科学』に匹敵する世界標準の生物学教科書といわれていた。

生物学が高校の必修科目ではないことや大学では生物学=分子生物学といって過言ではないわが国の状況下で,原書のような総合的で大部・高額な生物学教科書の需要はないと判断するのが妥当とはいえ,リスクをとらなければ市場を席巻するような教科書の出版はおぼつかないことを本書が改めて教えてくれた。

 「訳者まえがき」に本書の特徴が,生物の多様性の分子的研究の進歩や,温暖化,生命倫理,エネルギー・食料問題,生物多様性の保全など生物学と社会のかかわりを取り込んだことにあり,しかもこれらを羅列的ではなく,いくつかの統一的テーマを設定して体系的に理解できるよう構成している点にあると指摘されている。一言でいえば生物学を総合科学ととらえたのが本書の最大の特徴である。最新版ではデータの読み取りや見せ方など科学研究スキルの習得にも重点が置かれるようになり,改訂のたびに進化してきている。

 なお,2011年に『エッセンシャル・キャンベル生物学』を,2016年に『エッセンシャル・キャンベル生物学 原書6版』を出したが,『エッセンシャル版』(本体価格7,000円)も好調に推移している。

  

電子出版

 

■電子書籍

 CD-ROM商品やフロッピーディスク付きの本からカウントすれば、電子商品は丸善・出版事業部時代の1980年代から発行しているが、いわゆる電子書籍に力を入れだしたのは、ここ10年のことである。

 

 丸善時代

 ・2000年頃 ザウルス文庫(シャープの電子手帳向け)、DoCoMo携帯電話向けに新書 である丸善ライブラリーのコンテンツを中心に配信開始。

 ・理科年表ジュニア(2001年)をAdobe eBook形式でリリース。

 ・2005年 「単位の辞典」「略語大辞典」などの配信を開始。(株式会社エアのJLogos へ掲載)

 

 丸善出版時代

 2011年 分社とともに担当部署として新規事業開発部(現・電子コンテンツ開発室)を 組織し、過去に電子化したタイトル再配信を中心に電子化に着手する。DNPの個人向 けストアhonto、TRCの図書館向けサービスDRC-DL、丸善(現在の丸善雄松堂、以下 同じ)個人向けKnowledgeWorker向けebooksに配信開始。

 2012年 丸善機関向けサービスMaruzen eBook Library(MeL)への配信を開始する。 この年より、社の方針として可能な限り、紙の刊行と同時に著作権者に電子版の許諾を 得ることとなった。

 2013年 医療系電子書籍サイト「M2PLUS」、大学生協運営の専門書電子書店    「VarsityWaveeBooks」への配信を実施。

 2014年 丸善の教科書向けサービス Maruzen eText Serviceに参加。

 2015年 MeLで紙の本と電子を機関向けに併売する「新刊ハイブリッド」に参加。

 2016年 メディカルオンライン イーブックス(メテオ)への配信開始。

 2019年4月 PC書の一部をepub化し、Kindle、KOBOへ試験的に配信。

 2019年6月 医書ジェーピーへの配信開始。

 

電子書籍のシェアは毎年伸びており、2018年のデータでは16%を占めている(「出版科学研究所」による)。これらの多くは現在主流のepub形式によるもので、また、その80%はコミックスが占めている。本来、学術専門書も、ネット注文ですぐに読むことができ、在庫の心配もない電子書籍との相性は良いはずである。

しかし、当社コンテンツは、Maruzen eBook Libraryなどの機関向け、図書館向けサービスでは大変好評頂いているものの、個人向けサービスには売上が伸びていない。これは弊社の得意とする数式、化学式や数表等を収載した学術専門書コンテンツは、日本語epub3形式(特にリフロー形式)で表現することが難しく、また検索性も維持する必要性から、現時点ではPDFフォーマットでの配信(個人向けに販売できるストアが限られている)をメインとせざるを得ないことが理由である。

 

eコンテンツ

webによるコンテンツ配信の取り組みとして、2005年に「理科年表プレミアム」「化学書資料館」の2つをリリースした。

 

理科年表プレミアム

 大正14年の創刊から最新年度までの理科年表データを収載し、使い慣れた目次や、全文検索により、必要なデータにアクセスできる。表はExcelで保存でき、過去からの変化などを自在にグラフ等にすることも可能。毎年11月に新年度版刊行とともにデータを追加。

 

化学書資料館

 「化学便覧」の最新版および「実験化学講座」(初版〜第5版)、「標準化学用語辞典」全151冊、85,000ページを収載した検索・閲覧サイト。「化学便覧 基礎編」の「化合物検索」はデータベースとして利用可能。「化学便覧」改訂時に新版を追加。(応用化学編は第5版から最新版まで、基礎編は最新版のみの収載)

 

いずれも1年間無制限に利用できるライセンス契約で、主に大学や企業、研究施設等の機関利用が中心だが、教員や個人研究者向けに「理科年表プレミアム 個人版」「化学書資料館 個人用アクセス権付き」として、同時アクセスPC1台のみとした「個人版」パッケージを書店ルートで販売している。(弊社経由でクレジットカードによるパッケージレス購入も可能)

 

動画配信

当社映像メディア部では、医療向け・学術向けビデオパッケージの開発・販売に長く取り組んできたが、2017年4月より、看護・医学向け映像コンテンツを大学・医療機関向けに配信するストリーミングサービス「Educational Video Online(EVO)」を開始した。

e ラーニングの活用やタブレット端末の導入など各教育機関のICT 化が進み、映像の視聴環境も大きく変化している中、PCやタブレット、スマートフォン等の端末からWEB視聴を可能にすることにより、医学生、看護学生、新人看護師などの学習に最適な環境を提供するものである。また、「Educational Video Online(EVO)」では学生数や病床数に関わらず年間の一律料金でアクセス無制限の料金設定となっている点が特徴である。

現在、「最新 基礎看護技術シリーズ(全24タイトル)」など16作品を配信中。今後順次コンテンツも増やしていく予定である。

 

  

<< 『理科年表』の歴史とトリヴィア

 

 

 

≪ バックナンバーと今後の予定 ≫

1月  明治時代

2月  大正から戦前・戦

3月  戦後直後

4月  戦後復興期

5月  高度成長期Ⅰ(昭和30年代)

6月  高度成長期Ⅱ(昭和40年~オイルショック)

7月  オイルショックとその後の回復期(昭和48年~昭和60年)

8月  バブル期とその後(昭和61年~平成8年)

9月  平成8年~現在

10月「學鐙」の歴史

11月『理科年表』の歴史とトリヴィア

12月 新たな取り組みの時代

 

   

丸善 創業150周年記念サイト

http://150th.maruzen.co.jp/

 

本記事に関するお問い合わせは、お問い合わせフォームよりお知らせください。 

関連商品

▲ ページの先頭へ