内容紹介
ニュートリノは、宇宙全体の構造や発展にかかわる重要な存在でありながら、相互作用が弱いため観測が難しく、研究が困難である。日本の研究者たちは、その観測のために新しい装置を開発し、それによって、長年、その研究で世界をリードしてきた。本書では、ノーベル賞受賞成果につながる「超新星ニュートリノ」「太陽ニュートリノ」「大気ニュートリノ」「ニュートリノ振動」などの研究を、研究者たちがどのように企図し、どのように進めていったか、それに使われたカミオカンデをはじめとする観測装置をどのように作り上げていったか、物理的内容の解説と謎を解明していく研究者たちの挑戦を、まさにそれに関わってきた一線の研究者たちが紹介する。
目次
1章 カミオカンデ——ニュートリノ探究の原点〈鈴木 厚人〉
1 世紀の大発見、陽子崩壊を探す
2 カミオカンデの誕生
3 20インチ光電子倍増管の開発
4 カミオカンデの船出
5 ニュートリノ検出に挑戦
6 超新星爆発ニュートリノの初検出に成功
7 太陽ニュートリノの謎に迫る
8 大気ニュートリノも謎
9 まとめ――もっと光を! スーパーカミオカンデの待望
2章 陽子崩壊を探す〈鈴木 厚人・有坂 勝史〉
1 物質の崩壊
2 素粒子標準理論
3 陽子は安定か?
4 標準理論から大統一理論へ
5 大統一理論の検証——陽子崩壊を探す
6 カミオカンデ始動
7 陽子崩壊探索の結果と今後
3章 消えた太陽ニュートリノの謎を追う〈中畑 雅行〉
1 太陽ニュートリノとは
2 太陽ニュートリノ欠損現象に挑む
3 ニュートリノの正体、素粒子標準理論とニュートリノ
4 ニュートリノ質量とニュートリノ振動
5 ニュートリノ振動と日本人の貢献(牧—中川—坂田理論)
6 カミオカンデを改造しよう
7 カミオカンデがとらえた太陽ニュートリノ
8 ニュートリノ振動としての解釈
4章 超新星爆発ニュートリノの初検出——ニュートリノ天文学の創始〈中畑 雅行・鈴木 英之〉
1 超新星SN1987Aに遭遇
2 超新星ニュートリノとは
3 SN1987Aの観測からわかったこと
5章 大気ニュートリノもおかしい〈中畑 雅行・梶田 隆章・瀧田 正人〉
1 大気ニュートリノとは
2 大気ニュートリノがおかしい
3 謎の原因は?
6章 スーパーカミオカンデの待望とニュートリノ質量の発見〈鈴木 洋一郎〉
1 太陽ニュートリノと大気ニュートリノの謎を解く
2 スーパーカミオカンデでニュートリノ振動の検出を目指す
3 スーパーカミオカンデの建設と国際協力
4 ついにとらえたニュートリノ質量
5 後日談
6 スーパーカミオカンデの威力と魅力
7章 ニュートリノ質量の発見――加速器からのニュートリノを使うK2K/T2K〈西川 公一郎・中家 剛〉
1 加速器ニュートリノ実験のねらい
2 K2K加速器実験の特長
3 結果とその意味するもの
4 もっとニュートリノを!――T2K実験
5 T2K実験の結果
6 ニュートリノの反粒子、反ニュートリノを使って
8章 反ニュートリノ質量の発見――原子炉からのニュートリノを使うカムランド〈井上 邦雄〉
1 液体シンチレーターを使うカムランド
2 目指すは太陽ニュートリノ問題の解の特定
3 原子炉反ニュートリノも欠損していた!
4 ニュートリノ質量情報の精密測定
5 まだまだやるぞ!
9章 これからのニュートリノ探究〈中家 剛・井上 邦雄〉
1 粒子と反粒子、質量の階層
2 もっと光を、もっとパワーを、もっとニュートリノを――ハイパーカミオカンデ実験
3 マヨラナ質量の探索